4 たがいにきずをおって、でも君はひとりで。



雷蔵と三郎が喧嘩をしたらしい。

そんな状況を知らずに歩いていたおれは、謝ろうとしてきた鉢屋三郎に出会った。

あらあら、そういえば、今日は変装をしていなかったな。そう思いながら、雷蔵の表情を貼りつける。

思い込まれたら、その人の演技をするのは礼儀でしょう?


「すまない。雷蔵。今回の事は私が悪かった」


「なんのこと?」


本当に意味がわからない。

けれど、いつもの表情をして、この言葉を言えばどうにかなるだろう。

そう思って放った言葉。


「…あらら、失敗しちゃった」


一瞬顔を歪めて、ダッと走り去って行く鉢屋を見送って、一言呟いた。


「でもおれと雷蔵を間違えるお前が悪いよ」


全然違うのに。

そう頷いて、少し歩くとまた同じ顔に出会う。

あらあら、今度は雷蔵?


「三郎」


眉間にシワを寄せて、呼ばれた名前は三郎。しょうがないから鉢屋の表情を貼りつけた。

さっきみたいな表情でいいかな。適当でいいや。と適当に表情をつけると、雷蔵は顔を歪めた。


「…僕、まだ許していないから」


返事をする前にダカダカ歩いて行ってしまった雷蔵を見送って、あらあら。

たぶん、喧嘩でもしたのだろうな。まったく、喧嘩するとおれをはさむの止めて欲しいよ。

いっつもこうなんだから。

とばっちりで殴られるよりはマシだけれど…やっぱり変装は解くモノじゃないなぁ。


これ以上は勘弁です。


そう思っていつもと同じ、どこかで出会った村の若者の顔を作り上げた。

この顔じゃないと誰にもおれだと気付かれない。何だかさみしぃなぁ。



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