4 たがいにきずをおって、でも君はひとりで。
雷蔵と三郎が喧嘩をしたらしい。
そんな状況を知らずに歩いていたおれは、謝ろうとしてきた鉢屋三郎に出会った。
あらあら、そういえば、今日は変装をしていなかったな。そう思いながら、雷蔵の表情を貼りつける。
思い込まれたら、その人の演技をするのは礼儀でしょう?
「すまない。雷蔵。今回の事は私が悪かった」
「なんのこと?」
本当に意味がわからない。
けれど、いつもの表情をして、この言葉を言えばどうにかなるだろう。
そう思って放った言葉。
「…あらら、失敗しちゃった」
一瞬顔を歪めて、ダッと走り去って行く鉢屋を見送って、一言呟いた。
「でもおれと雷蔵を間違えるお前が悪いよ」
全然違うのに。
そう頷いて、少し歩くとまた同じ顔に出会う。
あらあら、今度は雷蔵?
「三郎」
眉間にシワを寄せて、呼ばれた名前は三郎。しょうがないから鉢屋の表情を貼りつけた。
さっきみたいな表情でいいかな。適当でいいや。と適当に表情をつけると、雷蔵は顔を歪めた。
「…僕、まだ許していないから」
返事をする前にダカダカ歩いて行ってしまった雷蔵を見送って、あらあら。
たぶん、喧嘩でもしたのだろうな。まったく、喧嘩するとおれをはさむの止めて欲しいよ。
いっつもこうなんだから。
とばっちりで殴られるよりはマシだけれど…やっぱり変装は解くモノじゃないなぁ。
これ以上は勘弁です。
そう思っていつもと同じ、どこかで出会った村の若者の顔を作り上げた。
この顔じゃないと誰にもおれだと気付かれない。何だかさみしぃなぁ。
[ 48/68 ]
[*prev] [next#]