追いつけない背中
なんでなんで、どうしてどうして
うしろにいるんです…いつも見ているんです…たちどまって、欲しいんです。
そう、思っているのに、あなたは気付いてくれないままで、ぼくは、どうすればいいのかわからない。
「綾瀬、せんぱ…い」
「なんだ。下坂部」
「待って…くださぁい、ぼく、ついていけませ」
「そうか。話はそれだけか。俺はついてこいとは言っていない」
勇気を出して、声をかけても綾瀬先輩は冷たい。
そういうの、きらいじゃないけど…ぼくは寂しいんです。
綾瀬先輩、綾瀬せん、ぱい…綾瀬…なんで、学園に入ってからこんなにとおいの?
前は、一緒に遊んでくれたのに…ぼくは何かをしたの?
いっつも、ぼくが後ろについていって、うざったかったの…?
綾瀬はすたすた歩いて行ってしまう。
その背中を追いかけようとして、やめた。
もう体力の限界だ。
「…ゆうれいごっこ、ちょっとやめよう…」
ろ組のみんなでやるゆうれいごっこ。
楽しいけれど、体力がつかない。
少しのあいだだけ、綾瀬に追いつけるようになりたいから、ちょっとやめる。
体力をつけるためには、何をすればいいのだろう。
食満先輩に相談して、教えてもらおうかな…ああ、でも、用具委員会にたくさんでたら体力がつくかも知れない。
ぼくがやらせてもらえるのは、ちいちゃいのを直す作業だけだけど、あれをやっていただけでも筋肉がついた。
日陰に入って日陰ぼっこ。
息を整えて、見えなくなった綾瀬の姿を思い浮かべる。
思いだすのは、学園に入る前に見た笑顔じゃなくって、綾瀬の背中だけだった。
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