泣かれてしまった墓参り
何度かまわった時間、狂った時間は冬以外に戻った事はなかった。
では、なぜ今巡ったのだ。今はまだ春だ。
時間だけは無駄にある、幽霊の生活の中でぐだぐだ考えていると、みた事のある姿の人物がやってきた。
「勘右衛門、死んでなかったなかった?」
「違う。俺、死んだのに生きてたんだ。な、んでなんだろ」
ぺたんとおいらの墓の前に座って、勘右衛門は泣き出した。
ちょ、待つでよ!おいら勘右衛門とはクラスが一緒でしかなかったなかった!!泣かれてもどうすればいいか、わからんちんでよ!!
展開が掴めないと、おろおろと勘右衛門の頭上をうろつく。
頭を撫でようかとしてみるが、スカッと通り抜けて終わった。
「…死に、たい!!死にたいの…!!俺と代わってよ綾瀬!」
「そんなのおいらに言われても無理無理。おいらは生きたかったけど死んだでよ。世の中思い通りにはいかんもんでよ」
「ぁぁあ!!な、んで、なんで代わってくんないのイジワル言うの!?おれ、おれ!もう戻りたくない!!」
泣きながらグズグズと自分の首を掻き毟る勘右衛門に、かなりメンタル弱ってるでよーと溜め息をつきそうになる。
何でおいらが、まぁまぁ仲がよかった同級生のメンタル介助しなきゃならんでよ。まぁ暇だしいいかいいか。
「…勘右衛門勘右衛門。何か勘違いしてるでよ?おいら、死んだけど…死んでも世界が戻るのをジッとみてるでよ。死んだら逃げ道があるとは思っちゃ駄目でよ」
「ひどい、ひどいよぉ!!なんでそんな事言うの!?夢くらい見せてくれたっていいじゃんか…!!」
「うーんと、おいら考えたんでよ?勘右衛門が死んだ時に、世界が急に戻ったでよ。つまり、今死んだらまた直ぐに戻る戻る」
「……え?」
「おいらは学園の事わからない。けどけど、学園の奴が死んだりすると戻ったりしない?」
おいらが死んでも、おいらが死んだ事実は変わらんかった。
けど、勘右衛門が死んだ時には、死んだ事実はなくなってた。
よくわからんけど、おいらは、この世界がまわるのは、必要な人間が死んじゃ駄目な時に死んでしまうから廻るのだと思う。
…その考え方だと、おいらはいらない人間だというのは、切なく思えるでよ。
「いっつも、冬になる前…三回くらい前、目の前で鉢屋が死んだ。五回くらい前、目の前で兵助が死んだ。十回くらい前、目の前で…」
「ちょ、ちょっとおかしいでよ。そんなバンバン死ぬ死ぬ?おいらが生きてた時…死んだ奴はおいらと、豆腐が異常なくらいに好きだった先輩だけだったでよ?」
「変…なんだ。どんどん、毎回死ぬ奴が違うんだ。俺は、みんなに生きてて欲しくって…死ぬのを阻止するんだけど、阻止すると違う奴が死んで…!!俺、もうどうすればいいの!?嫌なんだ。俺、もう嫌だ!俺だけっていうのやだよぉ…」
首を掻き毟るのは止めたけれど、だらだらと顔から出るもんを全て出している勘右衛門に、どうすればいいんだろうと頭を悩ませる。
…おいらが、生きてたら…とか思ったりするけれど、おいらはおいらで、死んだからまわってる事に気付いたのかも知れないので生きていたとしても意味がないでよ。
「勘右衛門、おいら、今死んでるから…戻ってる事に気付いてる。おいらと一緒だから一人じゃないでよ」
「綾瀬死んじゃってるじゃんかぁ…」
「でもでも、喋れる喋れる。話し相手はできるでよー」
「綾瀬声しか聞こえないもん」
「…ええーおいら声だけなのなの?見えてると思ってたでよ」
「声もうっすいし。…こないだはハッキリ見えたのに」
ぐずぐずと泣きながらぼそぼそ喋る。
その周りをぐるぐる回って、手を振って、あ、ほんとだ。おいらの事見えてないない。
「はっきり見えるのはよくないことでよーおいらとお話できるの嬉しくないない?」
「普通…だって、俺綾瀬と仲良くなかったし、こないだココで死んだのもたまたまだし…」
「おひゃー人の墓の前で死にくさったくせにたまたまとか酷いでよ!おいらトラウマもんだっただった!」
「そんなに言わないでよぉー俺だって、俺だってぇ」
「おひゃッ!?そ、そんなおいら言ってないでよ…もう、泣くのやめるでよ。今日の涙はここまでまで!これ以上泣いたら次泣けないでよ?」
「…うん」
素直に頷いた勘右衛門に、ホッと息を吐いた。
言う事をきくとは思っていなかったから、気が緩む。
「…ぐず、またくる」
「来てもいいけど、次はきちんと供え物もってくるでよ?おいら食えないけどあると嬉しい嬉しい」
「じゃあ、お団子持ってくる…」
ふらふらと歩きながら勘右衛門は墓から去って行った。
…おいらの前で死なれたら困るし、会いに来たら構ってやろうやろう。
勘右衛門はたぶん、寂しいんだろう。おいらも寂しいし、丁度良いでよ。
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