保健委員会
競合区域を歩いていると、誰かが罠にかかった音がした。
そういえばと、作法委員会の一年が綾部と組んで罠を仕掛けていたのを思い出す。
別に誰がかかっていても良いんだが、一年や二年が引っかかったら脱出するのは難しいだろうと思い罠の方へ向かうと、
「…三反田か」
穴に落ちたうえに中で宙吊りになっている三反田を見つけた。足に縄を引っかけているようで、頭に血がのぼりそうだ。地味に嫌な罠だな。
「三反田ー自力で脱出できるか?」
「その声、唐木田先輩ですか…?助けて欲しいです」
「わかった。ジタバタすると縄切れるから動くなよー」
保健委員だし助けるならさっさと引き上げないと縄が切れる。
宙吊り状態のまま三反田を引き上げた。逆さまでつらかったのだろう、ふらふらしている。
足に巻き付いている縄を解いてやって足の状態を見た。紫色に腫れている。まぁ体重が全てここに行ったんだ。千切れなくてよかったな。
「三反田、足いてーだろ。保健室までおぶるから乗れ」
「す、すみません」
「いや、気にするな。…三反田。お前ちょっと痩せるべきだ。それか筋肉つけろ。ふにゃふにゃして女みてーだぞ」
「僕男ですよ!」
「わかってるよ。二年の時風呂で見た」
三反田をおぶって、保健室へと向かう。
このおぶった時のふにゃふにゃした感じは男とは思えないな。そう思うのは同学年に太った奴がいないからかも知れない。
福富もこんな感じのさわり心地のほっぺたをしていた所を思うと福富もこんな感じなのやもしれん。
保健室について、三反田にききつつ包帯と軟膏を取りだした。三反田は立てないらしい。自分で動こうとして盛大に転んだのだストップをかけた。
可哀想だがあそこを通った三反田が悪い。
「ジッとしてろ。俺がやるから」
「で、でも」
「保健委員でも怪我したらただの怪我人だ。俺だって四年だからな。これくらいの処置はできる」
近くに保健委員がいない実習なんてものはよくあることだ。
小さな傷は自分で処置できなければならない。そもそも就職して、就職先に医療忍者とかがいるわけでもねーからな。保健委員ほどじゃねぇけどできるもんなんだよ。
…四年は保健委員がいねぇのもあるけど。
「唐木田先輩器用ですね」
くるくると包帯を巻いて行く俺の手元を見て呟いた。
「まぁ、用具委員だったからな。去年も今年も仕事手伝ってるし」
「あぁ…作兵衛が泣いて喜んでましたよ」
「作兵衛はよく泣くもんだ」
「それ言ったら作兵衛怒りますよ?」
「作兵衛はよく怒るもんだ」
感情の突起が結構激しい富松作兵衛だが、俺はわかりやすくて結構好きである。じゃなかったら可愛がってなんかいねぇし。
包帯を巻き終わって、動きを確認する。どうやら大丈夫そうだ。三反田が動き回らなければ問題ない。
「今日はこれから委員会の当番か?」
「はい。そうなんです。これから朝までで…薬を煎じたりするんですけど、棚から材料取れないです…」
チラッと俺を見る三反田は手伝ってほしいようだ。かといって、俺もそんなに暇なわけではない。
「すまん。無理だ。俺はいまから生物委員会に行く」
「ですよねーわかってます。よくある事なので…」
ガックリと落ち込んだ三反田に、今日のスケジュールを頭の中で出した。
「一応だが…生物委員会が終わって、用具委員会に顔を出したあとなら来れる」
「ほ、本当ですか!?」
「ただし、俺は役に立たんぞ。保健室に来ても、用具委員会の道具の手入れをするからな」
ビシッと指をあげて、役に立たないと宣言する。
薬なんて全くわからん。俺は一年生の時から薬は使う側だ。
「それでもいいです!一人でいると不運が起きた時に対処するのキツくって…!!」
「さっきみたいな奴か」
「…はい」
「…何か起こす前に準備しとくか。少しだけなら時間あるから、場所と取ってほしいもの言え。取るから」
「ありがとうございます、唐木田先輩。じゃあ、あの棚の三段目、左から二番目に入っているものと――」
三反田に言われたものを取って渡す。
「これで暫くは動かなくても大丈夫そうです」
「そうか。俺は役に立たないが…またあとで来る」
ぽんっと三反田の頭に手を乗っけて、保健室を出た。
保健室には中在家先輩が行っているので、俺は行かなくても大丈夫だろうと思っていたが、そういえばあいつら不運体質だったな。
今日の三反田の罠の掛り方を思い出して、少し気にかけてやろうという気を持った。
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