鉢屋
ざあざあと降り注ぐ雨を頭をふって、振り払う。
けれど、雨はまだ降っているので意味はない事にイラついて頭をかいた。
真後ろに気配を感じて振りかえる。見知った顔がそこにはあった。
「おやぁ、さぶろう。きてくれたんですねぇ」
「こいと言ったのはお前だろ。こんな雨の日に呼び出しやがって」
「うひひ、すみませんねぇ」
にやにや笑う相手に、三郎は胡散臭そうな表情を向ける。
「でも、きょうじゃないといかんのですよぉ。さぶろう、こんどのみやげはあまいものがいーなぁ。」
「それだけのために呼んだのか?お暇なこった」
「うひひ、よろしくなぁ」
ニヤニヤと笑いながらひゅるんと消えた友人を見送って、三郎は次に村に帰るのはいつだろうと思い浮かべた。
村の墓地の一角に、ニヤニヤと笑う友人が眠っている。
「まったく…輪廻に入れなくても私は知らんぞ」
寂しいと感じた時ばかりくるのだから。
雨と共に、掠れた言葉は地面に消えた。
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