不破雷花(ふわ らいか)



「不破、まだ悩み癖は直っていないのかい?」


どのケーキを買うかで迷っていた時に、目の前からかけられた言葉に目を丸くした。


「あなたは…」


「ああ、ごめん。覚えていないかな。悩む事はよいことだ。それが俺のケーキだったらね…片方買ってくれたらもう一個あげるよ、昔のよしみだから」


「え、え!?わ、わりゅ…悪いですよ!」


「480円です。お会計をお願いします、お客様」


にこっと笑って僕に手を伸ばしてお金をせがむ。それに迷いながらも500円玉をのっけて、おつりを渡してきたてのひらは昔と同じぬくもりだった。

懐かしい。

ケーキを持ち帰りようの箱に詰め込んで、渡してくる人も昔と同じ。違うのは髪の長さくらいだろうか。

あと、


「綾瀬先輩、おおきくなりましたね」


「不破はちっちゃくなったかな。一部分おおきいけれど」


「女の子ですから」


大人になれないまま逝ってしまった先輩が大人になった姿なんて、記憶にはなかった。
あなたは眠ったままだったのに。


「よい夢を見たんだよ。そしたら大人になったのさ」


「そうですか。それはよかった」


にこっと笑いあって、ケーキを持つ。


「おごったのだから、ご贔屓にしておくれよ」


ひらひらと振られる手に振り返して、こんど来る時は三郎を連れてこようと決めた。



 

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