学級委員長委員会
「もう、鉢屋先輩!今日はこれで三回目ですよ、いくら天女様が気になるからって失敗しすぎです」
「はは、すまないな庄左ヱ門。いくら私が天才でも、失敗する時はあるんだよ」
「それ、このあいだからずっと言ってますよ」
窓越しに後輩の黒気にジト目で見られている鉢屋先輩を発見した。
…いや、さっき鉢屋先輩は食堂で、天女様にひっついてのを見かけたから、鉢屋先輩じゃなくないか?不破先輩じゃね?
助け舟を出すべきか。いや、わざと怒らせているのかも知れない。そう迷っていると、鉢屋先輩…じゃなくて不破先輩?と視線があった。
視線だけで、これは助けた方がよさそうだと判断して、窓から室内に声をかけた。
「よー。どうしたんだ、黒木。そんな怒って」
「唐木田先輩!別に何ともありません」
「そうか?」
「そうさ!綾瀬がきたから丁度良い。私はちょっくら失礼するよ!」
「あ、鉢屋先輩!…はぁ」
…綾瀬と俺の事を呼んだから、確実に不破先輩だな。鉢屋先輩は俺の事を名前で呼ばん。
先輩に逃げられて、溜め息を吐いた黒木に目線を合わせる。
「鉢屋先輩は行ってしまったな。仕事が途中じゃなかったのか?」
「はい、そうなんです。これからプリントを各学年に持って行かないとならなくって」
「もしかして、鉢屋先輩がプリントミスでもした?」
「唐木田先輩、よくわかりましたね。鉢屋先輩は最近そういう細かい失敗が多いんです!しかもミス直し終わる前に行っちゃうんですよ」
ぷんぷん怒りながら、プリントの確認をしている黒木に頬をかいた。
慣れない仕事をして失敗したんだろう。
これから重要な使いがあると、去り際に先輩が矢羽音で伝えてきた。
それがあったとしても、不破先輩が俺に物事を迷わずに押し付けてくるなんて珍しい…何かあったのだろうか。
「どういうミス?」
「ルビの振り忘れです。今までこんな事はなかったのですが…」
「…それ、俺が手伝っても構わないか?学級委員長委員会の仕事だろうけどさ」
「いいんですか?」
「ああ。日が暮れるまでは暇なんだ」
「じゃあ、お願いします。殆ど鉢屋先輩が直してたので、あとほんの少しなんです」
ほっとした表情を浮かべた黒木ににこりと笑って、窓を乗り越えて部屋に侵入した。
「唐木田先輩、お行儀悪いです」
「いいんだよ、靴はぬいでる」
「それもそうですね」
そう言ってパッタリと黒木からは返事がなくなった。
ルビ振りに忙しいらしい。
手本を一枚もらって、それにそってルビを振って行く。一年用のプリントだな。二年からはルビが急激に少なくなるのを思い出した。
あれは絶望した。文字が読めねぇって思ったわ。
「学級委員長委員会って、こんな事してんの?案外雑用だな」
「はい。先生の仕事が軽くなるようにお手伝いをしてるんです。イベントがあれば真っ先にかりだされます」
「へぇーなるほど。そういや司会とかしてんのは学級委員長委員会だったな。あんまり気にしてなかったわ」
ルビ振りは案外早く終わった。まぁ、俺去年会計委員会だったし、今年は図書委員会で墨をめちゃくちゃ使いまくってるからな。文字の早書きには自信がある。
普通に読める字だったらどうにかなるんだ。
綺麗じゃなくても読めれば問題なし。って事で形なんて気にせず書いている。
「黒木、そっちは終わったか?」
「え?唐木田先輩、もう終わったんですか?」
「ああ。他に雑用があったら手伝うけども」
「…じゃあ、この冊子作る作業お願いします」
「わかった」
作業は丁寧に!をモットーにしているらしく、黒木の字を覗き込むと綺麗だった。お前本当に一年か?と疑いたくなる。
そりゃ作業進まないよ。そう思っても言いはしない。自分のペースを乱されると失敗しまくるもんな。
…失敗しまくる?そういえば、不破先輩が失敗を三回もした。って黒木は怒っていた。
不破先輩の作業は、ゆっくり大雑把になりつつも、案外丁寧。って感じだ。鉢屋先輩に偽装していたところを見ると、鉢屋先輩のペースでやったのだろう。そりゃ失敗する。
鉢屋先輩は、作業は早く!丁寧!その上美しく!暇だったら凝ろう!って感じだ。
「無茶したんだろうな…」
「はい?」
「いや、なんでもない。黒木、何か手伝ってほしい事があったら直ぐに言えよ。溜まってからだと遅いからな。今福にも言っとけ」
「わかりました」
学級委員長委員会の仕事で、下の方の仕事…他の委員会生に見せても大丈夫なようなものは俺がやろう。
見せちゃならないような仕事は不破先輩が鉢屋先輩に化けて頑張ってやるだろうからな。
負担は分担した方が良い。
集中的に会計委員会に行ったから、今日行けばもう、しばらくは行かなくて大丈夫だろう。時間は余るから問題ない。
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