用具委員会
委員長がいないと、実に地味な委員会だが、用具委員会は忍術学園にとってかなり重要な委員会である。
ついでに、地味に仕事が多い。しかも、地味にチマチマ仕事をしないと溜まって授業に問題が出るのだ。
なので、地味に人数が足りない。他の委員会より人数が少ないのに、入ってこない。手が足りない。
「……作兵衛、お前ちょっと寝なさい。俺がやっておくから、な?」
だからといって、そこまで頑張る必要はないんだぞ、富松作兵衛。
顔にドでかいクマを作って、ふらふらと危なげに修理をする作兵衛の背を叩いた。
危なっかしくてまかせておけない。
「だ、駄目です!俺が寝ちまったら唐木田先輩に迷惑がかかります!!」
「だーいじょうぶだって!一年達もいるんだし、作兵衛は今まで頑張ってただろ?一年よりたくさん働いてるんだから…先輩命令なんだから従えっての」
なぁ?と作業中の一年に声をかけると、コクコクと頭を上下に振った。
「そうですよ〜僕達に任せてください!」
「ナメさんもお手伝いするから大丈夫ですよ〜」
「富松先輩休んでくださぁい…このままじゃ死んじゃいますよぉ」
「お、おまえら…!!」
「うんうん。ナメさんにはちょっと遠慮してもらうけど、頑張ろうな」
感動して涙ぐんでいる作兵衛に笑いかけると、ぐしぐしと目を擦った。あかくなっぞ。
けれど、寝ようとしない。年上の矜持って奴か?そんな奴ぁ捨てちまえ。寝れる時は寝るもんだ。
「作兵衛、寝なさい。ココで寝てもいいから」
どうせ部屋に帰ると、根性で起きて神崎と次屋を探しに行くんだ。ここで寝かせた方が良いかも知れん。
そう思って言った言葉だったんだが、こりゃどういう事だ。
「わぁ…寝ちゃいました」
「…膝枕って意味じゃぁなかったんだけどな。まぁ、大きいのはあとで直すからいいか。山村、すまないがそっちの取ってくれ」
「は〜い」
「福富ーそれは力を入れ過ぎると壊れるから、慎重にやれよー」
「わかりました!」
「下坂部、滅多に見れない先輩の寝顔を見るのはいいけど、手元注意しなさい。手裏剣のヤスリ掛けは危ないからな」
「はぁい、ごめんなさい」
ぐかぁーと疲れているのだろう。イビキをかいて寝る富松を放置して、動けないので山村に修理するモノをとってもらう。
福富が直そうとしているものは、力を入れ過ぎると悪化するので声をかけて、のんびりと作兵衛の観察をしていた下坂部には手元を注意しろと言った。
俺は今のうちに細々としたモノを集中的に直す事にする。
作兵衛が起きたら直ぐにアヒルさんボートを直さなければ。いっつも思うんだが、アヒルである意味はあるんだろうか。
学園のものだって見分けやすいから、そこのところは楽なんだけどなぁ…船首部分が壊れると超めんどい。
「あのぉ…唐木田先輩」
「なんだー下坂部。厠か?」
「まだ大丈夫です…唐木田先輩は、天女様の事どう思ってるんですかぁ…?」
「別にどうとも思ってないけど…急になんだ?天女様にイジメられたりしたのか?」
黙々と修理をしていたところに、下坂部から質問が来て顔をあげた。
イジメられたりしてるなら、教師に報告しなければならん。
「別に僕は何もされてはないんです。けど…食満用具委員長が死んじゃいますぅ!!」
「どうしてどうやってそういう発想に至った。先輩に説明してみなさい。いきなり食満先輩が死ぬとか言われても俺わかんないよ」
一はの二人を見ると、口笛を吹いて目をそらした。俺に一人で対応しろとな。
「け、食満用具委員長は…いつも鍛練してて、僕達は正直着いていけなかったんですけど…でも、毎日鍛練をしてたから強くって…けど天女様がきてから全然鍛練してないんです」
「あー身体が鈍って、実習中に死んじまうかも知んねぇってことか?」
「そぉなんです…僕、先輩達が死ぬ所なんてみたくありません!」
ずーん。と勝手に落ち込んで、それでも手裏剣のヤスリかけをやっている下坂部に、死ぬ前提で考えられてるぞ用具委員長…と切なくなった。
まぁ、こんな状態を一ヶ月も続けちまってる時点で既に鈍ってるだろう。実習中に死んでもおかしくない。
この状態では危険だと、先生達は実習訓練を中止しているから何も起きないけど…実習訓練をやっていたら怪我人続出だろう。
「食満先輩は、まぁ、もしかしたら死ぬかも知れんが、俺はまだ死なん。一応鍛練してっからな」
「…唐木田先輩…食満用具委員長の事は、諦めろっていうんですかぁ…?」
「そういう事じゃないさ。人間いつか死ぬ。それは絶対だ。まぁーあれだ。俺は下坂部達が見てる所では死なないから安心しなさい。卒業してから死ぬから」
手の届く範囲にあった下坂部の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「唐木田先輩、卒業したら死んじゃうんですか?」
「卒業したら大人になるだろ。八十とか百になるかも知れんが、いつか死ぬ。まぁあと二・三年は死なんさ」
「そぉですか…唐木田先輩、長生きしてくださいね」
「ありがとう」
なんだこの会話。よくわからん。
この対応でよかったのだろうか。
けれど、薄っすら下坂部が笑ったので良しとしよう。
あとがき
一はの二人が放置を決めたのは、これがよくある事だからです。
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