火薬委員会
会計委員会に区切りをつけて解散させ、俺は眠らないまま授業を受けた後に火薬委員会へ来たのであった。眠いぞこのやろう。
既に始まっている火薬委員会に出席しているのは、上の学年は二年生だけだった。
二年生…だけ、だった…
俺の制服が紫色だからだろう期待を込められたような目が、俺の顔を認識した途端、光を失う瞬間を見た。
「…なんか、すまん」
「いえ!気にしないでください!タカ丸さんがこないのがいけないんです!」
「タカ丸さんなんてこなくても変わんないだろ。久々知先輩がこないのが問題なんだ」
「タカ丸さんだって頑張ってたんだ!そんな言い方しなくてもいいだろ!」
「じゃあ、何で今こないんだよ。継続してやらなきゃ意味ないだろう」
「落ち着きなさい」
言い合いを始めそうになる二人を制して、にっこり笑う。俺は人の真似をして笑うのが得意なんだ。
どうだ。タカ丸さんに似てるだろう。薄っすら安心感が与えられるだろう?俺はタカ丸さんじゃないから気付かないだろうけどな!
嬉しいような懐かしいような表情を一瞬浮かべた二人にほっとして、声をかける。
「二人とも、俺が手伝えるような仕事あるか?今何をすればいいのか俺はわからねーんだ」
「いっぱいあります!」
「はい、上級生にやってもらいたい事がたくさんあるんです」
「そうか。じゃあ、まずは何をする?」
「火薬の棚の入れ替えをお願いします!」
「ふん、悪くないな。僕は火薬の数を数えます。おい、伊助。お前唐木田先輩が除けた壷の下掃除しろよ、埃は大敵なんだからな」
「そのくらいわかってるよ!」
言い合いをしながらも、実に良いコンビネーションだなーと思いながら言われた通りに壷を移動する。
湿りやすい場所とかがあるんだよな。火薬の使用期限もあるし、ずっと同じ場所においとくのはよくない。移動は正解。
壷の下を掃除。も正解。久々知先輩はちゃんと二人に教育してたみたいだ。そして二人は真面目ッ子という訳だな。しっかり覚えている。
そもそも火薬委員ってのは、かなり真面目な奴じゃないと務まらないから二人は性格的に火薬委員にピッタリなんだろう。あとで褒めてやる事にする。
「壷の移動はこれで良いな。二郭、掃除用具を片付けてきな」
「はい!」
何気に重労働だった。と腰を一回さすって、まだ数えている最中の池田に近づく。さっきあそこでつっかえてた。数え終わったあとにもっかい戻ってきたんだな。
「池田、火薬の量が合わないのか?」
「はい。そうなんです。誰も使っていないはず、なんですけど…」
何回も何回も数える池田に、これは盗まれたな。判断する。
たまにいるんだ盗む奴。三木ヱ門とか三木ヱ門とか三木ヱ門とかな。こってり叱られてるのを横で見てるから分かる。
昼も夜もカギは火薬委員顧問の土井先生か、火薬委員長代理の久々知しかもっていない。
道具を使って開けるにも昼は無理だ。目立ちすぎる。
「夜の火薬庫番は今はしているか?」
「……人数が足りなくて、僕と伊助じゃ無理じゃないですか。下級生同士では侵入者が来ても危険です」
「安全を確保したんだな。偉いぞ。って事は、土井先生が定期的に見回っているんだな?」
こくりと頷いた池田の頭を撫でる。悔しそうな表情だ。まだ二年生だから安全面を確保するのは良い判断だ。
二年は一年に毛が生えた程度だからなぁ。
「頭を撫でられても嬉しくなんかありませんよ!」
「おっと、そりゃすまん。池田、そこは俺が土井先生に伝えておくから放置しといていいぞ」
「え?だ、めです!そういうのはきちんとしないといけないんですよ!唐木田先輩、あんた本当に四年生ですか」
「なくなっちまったもんはしょうがないだろ。大丈夫だよ、学園外の奴らに取られた訳ではないだろうから」
ギャーギャー俺に文句を言い始めた池田を言わせておく。だいぶストレス溜まってるだろうから喋れる時は喋らせとくのがいいんだ。
だんだんと俺への文句が愚痴に変わってきた。
「だいたい久々知先輩も酷いッ僕ががんば、るのに!!」
「そうなぁ、酷いよなー戻ってきたら思いっきりケツ蹴ってやろうな。足腰立たんくなるくらい」
「うぇ、ぐ…ぅタカ丸さんが!僕一生懸め…お、しえ!の、に!!ひぃぐ、ば…がー!!」
「いてて、いてーぞ池田。俺の腹は久々知先輩のケツじゃねーぞ。ついでにタカ丸さんのケツでもねーかんな」
ダッと俺に抱きついてガンガン腹に頭突きを始めた。俺もいてーけどお前も痛いだろ、それ。
完全にパニクってる様子の池田に苦笑いを浮かべる。
池田は泣く事に慣れてないんだなぁ。泣くのがヘタクソだ。
あと、たぶん泣いてるの人に見られたくないんだろう。
カタンと音を立てて、扉を開けて気まずそうな表情をしている二郭を見て思った。
先輩の涙なんて滅多にみないもんな。
ビックリするよねー俺も扉開けたら、不破先輩が中在家先輩にくっついて号泣しながら頭突きしまくってたらビビるわ。うわ、なにそれ怖い。夢に出そう。
ちょいちょいと二郭を呼んでみると、案外簡単にきた。素直でよろしい。
二郭が戻ってきた事に気づいたらしく、奇声を発しながら俺に頭突きをしていた池田が止まった。振り返ろうとしないのでギュッと抱きしめてやる。
これで顔見えんだろ。まぁ泣いてるのはモロバレだろうけども。
「戻ってくるまでが案外長かったな?」
「雑巾が汚くって綺麗になるまで洗ってました。唐木田先輩!見て下さい!」
「おー綺麗に洗ってあるな。えらいぞ、長持ちしそうだ。これなら予算がカツカツでも雑費が減るな」
「えへへ、ありがとうございます」
「よーし、じゃあ二郭も戻ってきたし、今日の火薬委員会は終わりでいいかなー?いいともー!って事で俺が送ってやるよ」
逃げないように池田を固定してしゃがむ。
「わ、なにすッ!!」
「二郭肩車でいいかー?」
「いーともー!」
「僕を無視すんなッ!ひ、うわ!?」
二郭が上に乗ったのを確認して、立ち上がった。立ち上がる時に池田はだっこである。
きちんと戸締りを確認して、よーし、って事で。
「二郭ー池田ー走るぞ!きちんと捕まれよー!」
「え、ちょ、お!?」
「うひゃー!」
さっさと土井先生に報告して俺は寝る!
火薬の事に関しては、俺の担当ではないし、委員会を放置している久々知先輩が悪いのだ。
丸投げしとくのが一番良いだろう。下手に手を出すのはいかんしな。
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