生物委員会
手が空いたらすぐさま移動!
俺まだ四年なんですけどーと愚痴愚痴心の中で呟いたあとに、生物委員の小屋へ行く。
小屋の前で毒虫に餌をやっている奴を発見して声をかけた。
「伊賀崎ー虫逃げてないよな?」
「唐木田先輩。今日はジュンコ達、おとなしいんですよ」
「おーそりゃよかった。一年達にも虫入れてるカゴとか落っことさないように言っておけよ。どこか掃除してない所とかあるか?」
「狼の所と、兎ですね。虫は僕達でやったので」
「なるほどな。狼は今新密度を上げてる最中だから無理だ。俺が危ない。兎小屋の掃除手伝うぜ」
ホウキを取り出して大雑把に掃除する。別に丁寧にやらなくてもいいんだ。どうせ明日も掃除するからどうにかなる。
兎は臭くて駄目だなーと思いつつぱっぱと掃除をする。水が汚い。換えてやらねば。
水の入っている器を手に持って小屋から出る。
「あれ、って、伊賀崎!?何してんだ!そこは危ないからやめておきなさい」
「唐木田先輩…でも狼も腹を空かせてます。小屋も汚かったら不潔で病気になってしまう。狼が死んでしまったら…竹谷先輩が」
「俺がやるから伊賀崎は兎の水を換えてくれ。俺と交換だ。わかったな」
狼の小屋の扉に手をかけていた伊賀崎を止めて、狼の餌をもらう。
高圧的に言ってしまったが、これは仕方ない。狼は駄目だ。伊賀崎の大きさだったら力負けしてしまう。
俺でも危険だ。
だって俺まだ四年だし…けど後輩を危ない目に合わせる訳にもいかない。大丈夫だ。不破先輩と一緒に掃除も餌やりもやったから、狼も俺に慣れてるはず。
ちゃんと竹谷先輩に躾けもされているだろうから、大丈夫。びびってしまったら負けだ。
と一度息を吸い込んでから扉を開けた。
姿勢を低めにして、狼と同じくらいの目線にする。目が合ったとしても睨みつけることはせずに同時にそらして、掃除を開始した。
どうやら敵意は抱かれていないようで、狼達は俺がいないように寛いでいる。
しっかし…この間来た時よりも数倍汚い。不破先輩が確かこの間掃除したと言っていたけれど…あーそういえば不破先輩の部屋って汚かったな。掃除苦手なのかも知れない。
それに忙しくて掃除したといっても少ししかできなかったのかもな。これは伊賀崎が掃除したがる訳だ。
手際良く掃除を終わらせて、伊賀崎に持ってきてもらった水を入れる。
入れ替えた途端に近寄ってきた狼達に若干びびったが、直ぐに水を呑みだした狼に汚いのが嫌だったんだなと頷いた。
狼の警戒心が薄いのは、まぁまぁ信頼してくれているからだろう。じゃなきゃ餌とか手を出さん。
「伊賀崎、掃除終わったぞー」
かちゃりと小屋のカギをかけて、伊賀崎に声をかける。
パッと走り寄ってきた伊賀崎の表情が不安そうだったので、ぽんと頭に手を乗せた。
「明日も来て掃除するから、狼たちのことは気にせずジュンコ達の世話をしろよ」
「ありがとうございます」
「今回は大丈夫だったが気が立っていたら攻撃される。一人で狼の小屋に入ろうとしては駄目だ。入ろうと思ったら先生や先輩達に相談しなさい」
「…すみませんでした」
「いんや、俺こそすまん。伊賀崎は狼の事を心配してただけだったろ?むしろ今まで勝手に入らなかったのは偉い。小屋汚かったもんな」
ザカザカ掃除したけど虫湧いてたぞ。ありゃ掃除したくなるわ。俺ちょっと臭うし。
「あ、やっべ、俺臭いよな。すまん」
「別に平気です。臭いのは慣れてます」
「ならいいけど、ジュンコはそういうの平気なのか?蛇って臭いとかに敏感だろ」
「こういうタイプのにおいはジュンコは平気なんですよ。天女様みたいなにおいは駄目ですけど、ね。ジュンコ」
チロチロと舌を出すジュンコをうっとりと撫でる伊賀崎を見て、ちょっと地雷押したかもなぁと反省する。
薄々気付いてたけど、伊賀崎は天女様が嫌いなようだ。
俺?俺は話した事ないからどんな人かわからないし、何とも言えない。でも好きか嫌いかと聞かれたら嫌いかな。
周りの奴らが仕事をきちんとしてくれてたら嫌いにはならないだろうよ。
「伊賀崎、小屋でどっか脆い所とかあるか?さっさと直しといた方が後が楽だろ」
「小屋はまだ平気なんですが、虫籠が壊れています」
「わかった。明日までには直しとくから貸してくれ」
「お願いします」
分かりやすく話題変更をした俺に何も言う事なく乗ってくる伊賀崎は素で良い子だ。毒虫野郎だけど良い子。
でも業務連絡だし、これは返事もらわんと俺が困るしいいだろう。
二つ渡された壊れかけの虫籠を持って、自室へ戻る。ぱっぱと直して他の事をしなければならない。
主に宿題。そのあとに会計委員会が俺を待っている。
溜めると、後が大変なんだよなー…虫籠直してさっさとやるぞ。俺はやれば出来る子。
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