タイプをおしえて1
歩くと手裏剣が飛んでくる。歩くと穴がある。歩くと劇薬が舞飛んでくる。
これを避けられる二年時がいるだろうか。いや、そんなにいない。
因みにこれは大体が一緒に行動していた左近に当たった。手裏剣当たるわ穴に落ちるわ毒にかかるわ。
…不運にしては酷いだろ。不運というよりもこれじゃあ不幸だ。毎回俺が医務室に左近を連れ込んだ時の鶴町のあの顔。
ひっでぇ顔だ。チッと舌うちしたあとに、あの縦線の入った顔でにこぉと笑って。
「綾瀬せんぱぁい。なんで引っかかってくれないんですか?」
なんだあれ。
単純に恐怖を感じた。俺ではなくて左近が。
俺じゃなくて近くに居る奴に被害が行くので俺に関心はないのである。
「なので、善法寺先輩。鶴町をどーにかしてください。左近が死にそうです」
「僕に言われても…ねぇ?」
「だからって俺の所為じゃぁありませんよ、鶴町が勝手にやってるだけです」
「伏木蔵を叱ってはいるんだよ」
「俺は興味がないんで、正直左近が死のーがなんだろーがどうだっていいんです。俺が生きてれば問題ないんで。でもこのまま左近がいないと俺死んじまいます」
「綾瀬…ふざけんな…」
「うん。まずは左近を心配してあげようね。酷い状態でも唐木田を罵倒する元気だけはあるみたいだから」
「そんだけ元気なら生き残れます。だから早く復活してくれ左近。お前がいねーと俺が死ぬ。四郎兵衛すら近づいてこねぇんだ」
真面目な表情をして、死にかけの左近を見つめる。
どうやらツンデレを発動する暇もないくらい苦しいようだ。どんな毒使ったんだよ鶴町。
お前一年だろ。
流石にここまで酷いと思っていなかった。
「正直鶴町の行動はよくわからんのです。課題にしてもやりすぎだと思いません?」
「え、唐木田…気付いてないの?」
「なにをですか?鶴町は俺を課題か何かで落っことすんでしょう?」
「落っことそうってのは間違っちゃいないだろうけど、課題ではないよ」
「私的な恨みって奴ですか。俺ぁあいつに何か悪いことした覚えはないんですけど」
恨み事に違いないと、左近を見て思う。
全治二日だそうだ。こんな麻痺状態にさせてなにすんだ。い組は宿題多くてめんどっちいんだぞ。左近のぶんのノートを作る俺を誰か褒めろ。
ツンデレの癖に三朗次と久作が手伝ってくれないんだ。四郎兵衛?四郎兵衛には期待しちゃならん。あいつは自分で精一杯だしクラスも違うよ。
「良い事をした覚えはある?」
「良い事ですか。そういえば、こないだの合同演習でペア組んだ時に水を恵んでやりました」
「…ほかは」
「穴に落ちてるのを発見次第助け出してますね。でもこれは左近によくやってるんで癖みたいなもんですよ」
「それだよ」
穴に落ちてる学園生徒が居たら基本的にぽいぽい助け出す事にしている。
そういえば、鶴町はほぼ毎日落ちてるな。左近と同じだ。というか、左近と間違えて鶴町出しちゃうんだよなーめんどっちぃ。穴に落ちるなよ。
保健委員めんどくせー。たぶん、自分が落ちてるのになんで俺が落ちねぇんだって事で落っことそうとしてるんだな。
「それが駄目なんですね。了解です。今度から放置する事にします」
「放置しないで!保健委員の仕事が終わらなくなるから」
「どうせ一年の仕事なんて微力なもんですよ。三反田先輩と左近ががんばりゃどうにかなります」
「一年生も仕事は頑張ってるんだよ、最近では包帯が綺麗に巻けるようになったし」
「相続は力なりって奴ですね」
「って、あーもう!話がずれてく!修正修正」
「鶴町を止めて普通に過ごしたいです。できるだけ俺に関わってこない方法で。鶴町の普段のストーカーっぷり半端ないです」
授業や委員会以外の時間はいつも後ろからジー。毎日後ろをトタトタついてくる。俺に攻撃を仕掛けてきてそれが失敗して左近にあたる。これはまだ良い。
だが、最終的に風呂や厠、更には部屋にまでついてこようとするのは如何なものだろうか。
風呂は良いけど厠と部屋は勘弁してくれ。課題じゃないとしたら理由がわからなくてかなり怖いぞ。
「因みに今日は流石にうざかったんで蛸壷に落ちてたの放置してきました。左近死にそうだったんでしょうがないですよね」
「どおりで今日はいないと思った!!すぐに拾ってきて!今日伏木蔵が当番なんだよ」
「わかりました」
「ついでに色々話しあっておいで」
善法寺先輩に拾ってこいと言われたので、医務室を出て鶴町がハマっていた蛸壷に向かう。
でも流石に一刻くらい経っているからいねぇと思う。
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