夢オチは却下致します。6



「あてはないですよ。伊代にもないです」


「そうか!だったら家にこないか?」


「は?」


「私の家で住み込みでバイトしないか?金は払えないけど、寝床と食事は提供するぞ!」


「えーと、ありがたいお話ですが、その」


「今返事が欲しい!家族にだって今から連絡しないと間に合わないからな」


ニカッと笑顔を浮かべて、足を止める。

伊代は困ったような表情を浮かべて、私に正すような声色を出した。


「七松くん、おうちで変な噂たてられちゃいますよ。そういう事はもっと考えなければ駄目です。お嫁さんこなくなっちゃいますよー」


「伊代がくればいいじゃないか」


「あはは、冗談言わないでくださいよー。私なんか平平凡凡の天女でもない普通の女ですから」


「冗談じゃないぞ!」


「お嫁さんとか、そういうのは本当の人にしか言っちゃ駄目なんですからね。軽口でも駄目ですよ」


「軽口じゃなかったらいいんだな?」


声色が、子供に対するもので、少し傷ついた。

確かに軽口で言ったが、それは伊代が嫁が来なくなるなんて言うからだ。元から忍びになるつもりだったから嫁子なんて娶るつもりはなかった。

ムキになって、どうせ何時か言おうと思っていた事だと口を開く。


「はい?」


「学園を卒業するまで一年ある。私が卒業して、就職が内定したら結婚してほしい」


「は、はぁ?…はぁ!?え、え?ど、ええー」


まぁ、何時か言おうと思ったのはほんの少し前だけどな!

何を言えば良いのかわからなくなったのか、口をぱくぱく動かして顔を赤くする伊代にほくそ笑んだ。

あとは勢いに任せて問いかけ続ければ押し負けるだろう。彼女を何ヶ月見たと思っている。自覚したのは今だが、ほぼ毎日会いに行っていたというのは認識していた。

保健室の中の気配が忙しないが、このまま畳みかけようと口を開きかけるが、パァン!!
と勢いよく障子をあけて、伊作が出てきた。


「小平太ぁぁああ!!何で保健室の前で言うんだよ!!!僕達が恥ずかしいだろ!!」


「あ、伊作!空気読め!!」


「お前が空気読め!!」


暫く保健室の前にいて、出てこなかったから放置されると思っていたのに!ッチと舌打ちを一つして、口論を開始した。

私の手を離して、ふらふらと伊代が保健室に入って行くが、元から熱があったようだったから放っておく。


「ッ伊代さん!?」

ギャーギャー喚いていると、三年の三反田数馬が焦った声を出した。

その声につられて口をとめて、保健室を見ると伊代が倒れていた。


「え?」


「小平太!どういう事!?」


「熱があった!あと…倒れてる所を発見して一緒にきた」


「ちょお!!そんな状態の人に求婚してたの!?空気読め馬鹿!数馬、寝床の用意!」


「はい!」


口論は強制的に終了して、慌てて保健室に戻った伊作を見る。保健室で私の出番はない。むしろ邪魔してしまうだろう。

そういえば、吉野先生が伊代を探していた事を思い出した。伊代が目覚める前に体調が悪い事を伝えに行くか。

私がいなくなる事くらいは気配で気付くだろうから、伊作に声はかけずに走った。

伊代に畳みかけるのは彼女が起きて直ぐに開始する事にする。

熱に浮かされて夢でも見た。なんて思われたら堪ったもんじゃないからな!



→あとがきと裏設定(長いです)

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