夢オチは却下致します。2
パッと意識が切り替わる。目の前にはさっきまで居た。意識を失った廊下で、目の前に居る人はお母さんではなくなっていた。
「あ…七松くん」
焦った様子で私を抱き起そうとしている七松くんのにおいは、じっとりとした土のにおいだった。
そっかぁ、祠の前のにおいと一緒だぁ。夢見てたのか。
幻聴とか聞こえてたもんなぁ…そっか、そっかぁ
「…そっかぁー」
ぬるりと白蛇が私を見る。
もういいよ、もおいーよ。わかったよ。奥底で望んでいた事をあなたは叶えてくれないんだもの。おうちへ帰る事は一度諦めます。
ひとりはさみしいよね。私もさみしい。だから、私とあなた、一人と一匹で頑張りましょう。でも私が可哀想だから死んだらおうちに帰してね。
「七松くん。もう大丈夫ですから、保健室にも一人で行けますから…持ち上げようとするのは止めてください」
「駄目だ!」
「確かに気絶してましたが、やろうと思えば立ちあがれますよ」
感傷に浸っている暇もない。
私を持ち上げようとしている七松くんを制した。
抱き起そうとしていた体勢からは退いたけれど、私の腕を強く握って離さない七松くんに溜め息を呑み込んだ。正直痛い。血が止まってるんじゃないだろうか。
「一緒に保健室まで行こう!私が居た方がいいだろう?また倒れるやもしれんぞ」
「…それもそうですね。では、手を貸していただけますか?ゆっくり行きたいんです」
「わかった」
手を借りて、ふらふらと立ち上がる。一回気絶なのかわからないが、寝ていたからだろう。ちょっと体調は回復しているようだ。歩ける。
ただし、額を触ると若干熱っぽかった。さっきは熱なかったのに。
七松くんの体重をかけても全然ブレない腕につかまって、宣言通りゆっくり歩く向かう先は保健室だ。あとで七松くんに事務室への伝言を頼むことを決めた。
「天女様」
「なんでしょうか」
「あなたは天に帰るのか?」
「帰れるなら帰りますけど、今は何だか帰れないようです」
「帰れるまでの合間どうするんだ。いつまでも忍術学園にいる訳ではないんだろう?」
何で急に聞くんだろうと思うと、そういえばもうすぐ春休みだ。学園は締め切られる。その間の仕事とかどうするんだ?という心配だろう。
私はお金も何もない。持ってるのは身一つだけだ。学園の仕事もなくなるし、食べていけなくなるだろう。
自分の事のように切なそうな声を出す七松くんに、どうするんだろうと自分自身でも疑問に思った。
けれど、熱に浮かされている頭ではあんまり考える事も出来ずに口を噤む。
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