このきもちはなんだろう



任務が無事終わって、血にまみれた姿で学園の門をくぐった。

帰ってきたら直ぐに出会うと思っていた姿が見えなくてほっと息をはく。

天女様がいない。よかった。こんなにきたない私を見られなくて。彼女にこの姿を見られたら、彼女がけがれてしまう。天女様はとても綺麗な存在だ。

先生に報告を済ませ、普段通らない道を通る。風呂に入って、飯を食べて、眠って、明日会おう。明日になったら私は綺麗だ。


「七松くん?」


パッと後ろから聞こえた声に反射で振り返る。

声の持ち主は、天女様だった。


何故、ここにいるんだ。なんで、いま


見られたくない!そう思ったら身体は正直で、天女様に近づいて彼女の視界をふさいでいた。

身体が勝手に動いた事に驚いて、まわらない頭で口をまわす。


「あだっ!ど、どうしたんですか!?」


「見ないでくれッ!!」


「え、えと…?」


「見ないで!今の私を見ないでッ!!」


何もわからない様子で、きらきら輝いている天女様は、本当に美しい。

それにくらべて、私はなんてきたないのだろう。彼女の視界はふさがれているが、羽衣の白蛇と目があった。

きたない私は見られている。


「目を覆われたら何も見えません」


「ほん、本当だな!!」


「はい」


天女様は見えないと仰った。

だがどうだ。本当に見えないのか?

白蛇を通して私を見ているのではないか。そう疑いを持ってしまう。

ジットリとした汗が出る。白蛇から目を離せず、何を喋ればいいのかわからずに口が渇いた。


「七松くん。次屋くんが七松くんを心配していました。あとで会いに行ってくださいね」


「…三之助が?」


「はい。授業中に抜け出してまで聞いてきたので、かなり心配されていると思いますよ」


「そう、か」


ふと、何事もないように三之助が探していたと伝言を伝えてきた天女様に面を食らった。

まるで普段通り、門で会う時のような会話だ。

そのあとに続けられた言葉も普段と同じだった。何故、同じ言葉を言えるんだ。あなたは私が何をしてきたのか、気付いているだろうに。

きたない、こんな私でも普段通りに扱ってくれるのか。

気を配ってくれているのがわかって、天女がけがれると焦った心が凪ぎ、何だか不思議な気持ちが溢れてくる。これはなんだ。

食堂でおばちゃんが御飯を作っていると、ほんの少し明るい声で言った声につられて、明るい声で返事を返す。


「…うん。わかった!じゃあまず風呂に行ってくる!!」


「たぶん今日はお風呂が沸いていると思います。どこの学年だったか忘れてしまいましたが、泥だらけになっていた生徒さんがいらしたので」


「水風呂じゃないのはいいな!じゃあ、私はちょっと行ってくるから…目を瞑っていてくれないか?」


「構いませんよ?」


天女様に血を見せたくない。そう思って目を瞑ってもらった。

そっと手をはなす。そこには可もなく不可もなく。平凡な顔をした女性がいる。

きらきらぴかぴか輝いている。そこ以外は特に美しい場所はなく、綺麗な場所はない。


よごしたい。けがしてしまいたい。


魅力は少ないはずなのにそう思って、私は天女様に接吻をした。色は習ったはずなのに身体が熱くなる。

天女様が目蓋を上げる前に目の前から去って、思いっきり走った。

反応を見るのが恥ずかしかったし、こわかった。


あとがき
小平太の【あいする】は供物を大切にする事なので、恋や愛とかとは違います。
五年なのにこんな初心なのかよ!とか思うだろうけど、現代だと中学生!初心じゃなかったら私がびっくらこくわ。





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