不安と期待、ぐちゃぐちゃ。5
「うん。はまったよ。一発でできるってすごいじゃないか。あ、湿布はりますね」
「い、いえいえ!私ごときに勿体無いです。湿布もったいないです。自然治癒力にまかせるので気にしないで下さい」
湿布を貼ってくれるなんて言葉はとってもありがたいけれど、あとでお金を請求されてしまったらもう私はおしまいだ。
私は仕事のできないタダ飯食らい。タダ飯食らいは給料なんて一文たりとも出ないのである。
関節をはめるくらいなら治療費はかからないだろうけど、湿布を貼ったら、薬をもらったら。
お金ない。払えない。殺されるor学園から追い出されてのたれ死ぬ。思えば思うほどこわい。こわすぎる。
ありがとうございました。と早口で行って、保健室から脱出…はできなかった。
目の前に五年生の男の子が立ちはだかり、私の腰にはベッタリと数馬くんが張り付いている。
「え、えと…?」
「怪我を直さないで保健室を出るなんて駄目!!それ全治一週間くらいの怪我ですよ」
「そ、そうです!早く治る怪我を遅くしてどうするんですか!」
「で、でも私治療費とか払えませんから」
「え、ええ!?お金なんて取りませんよ」
「学園にいる人から取ったりはしないです!あ、でも外でもお金取ったりしない、ですよね」
「…もしかして、治療費は無料…なんですか?」
「「無料です!!」」
困ったような怒ったような表情をしている二人を見て、お金を払わなくてもいいのだと初めて知った。
いや、この学園の生徒は授業料などで前金として払っているだろうけれど、外の人にも無料で治療しているとは驚きだ。
薬草とかは見分けるのが大変だし、そこから薬へするのにも時間と労力がかかる。
お金を取らない理由がわからない。手に職があるのだからせびれるだけせびればいいのに…いや、私がせびられたらおしまいなんだけど。
治療を受けなければ気絶させて無理矢理でも治療します。なんてこわい事を言われて、首を縦に振る。
気絶なんてしてしまったらお風呂が沸かせないわ!そんな事になってしまったら、ふだんよくお話してくれるくの一教室の女の子達からフルボッコされてしまう。
彼女たちは強くてたくましい。このあいだ忍たまがボコボコにされているのを見かけてからは本当に、逆らったら死ぬ!!と信じている。
「天女様でもケガ、するんですね」
「私は天女じゃなくて、タダの人間ですからケガなんてしょっちゅうしますよ」
「僕もよくケガします。今年に入ってからが特に…保健委員になっちゃったからなのかなぁ」
「数馬、それは言っちゃぁいけないよ」
「保健委員が何かあるんですか?」
「それは…」
保健委員の二人が目を合わせて黙ってしまった。
…聞いちゃ駄目なことだったのかなぁ。
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