不安と期待、ぐちゃぐちゃ。3



確か保健室には汚れた服装で入らない方がよかったはず。

そう思い出して、一旦部屋で服を着替えてから向かった。

因みに服の腕の部分が裂けていた。ショックすぎる。あとで繕わなくては…借り物の服に傷をつけてしまった。これで何度めだろう。

服に関しては、最初に破けてしまった時にボロ泣きしてしまったおかげか、繕えば問題ないと教えていただいた。

あの時は正直死を覚悟した。この学園にきてから私は何度死を覚悟しているかと思うとゾッとする。


「どうしよう…」


私は保健室の前で足を止めた。

保健室の中から話声が聞こえる。どうやら、他に怪我をしている人がいるようだ。

私は仕事のできないタダ飯食らい。学園の生徒達と違い、授業料などを払っていないし、生活費も払っていない。治療してもらえるかどうかがわからない。

普段は自然に治ることにまかせているけれど、今回は関節が外れてしまっているので、誰かにはめてもらえないとどうしようもない。

力が入らずにだらんと垂れている左腕を見て、保健室を見て、自分の今の痛さを確認して


Uターンすると決めた。


また後でにしよう。くの一長屋にあるお風呂を沸かすという仕事があるのだ。片腕だけだけど、そこまで両腕を使う仕事では…あるかなぁ。

暇な時だったら治療してくれるかもと思っていたけれど…忙しそうな所に予算の一部も払っていない人間が着て、無料で治療を受けたら腹が立つはずだ。

このあいだ掃除していたら見かけた予算会議…あれを見たら、保健室に入る勇気はもう、殆どない。

なけなしの勇気だったけれど、やっぱり自力ではめる…のは無理だし…とりあえず仕事をしよう。あとで行けば問題ないはずだわ。


「ま、待って!!」


「は、はい?」


腕に負担をかけないように、ゆっくり歩いていると、右手を引かれた。

まさか誰かに呼びとめられるとは思っていなかったから、びくりと体が震えた。

私の右手をつかんでいるのは、焦ったような困ったような、そして泣きそうな表情をしている男の子だった。

髪の色がアニメっぽい。紫色なんて派手な色なのに、意識しようとしても中々気付かない。忍者に向いている子なのだろう。


「お、お姉さんケガしてるのに、なんで保健室に行かないんですか!?」


「え、いや…その、忙しそうだと」


「忙しそうでも中で待ってれば順番はまわってくるんですよ!僕、保健委員なんです。一緒に行きましょう」


表情の割に積極的だ。

強めに手を引かれて、保健室の前に戻った。

ふだんは、こわい。や、殺される。と頭の中に言葉がまわるけれど、


目の前に泣きそうな表情をしている子がいるとそういう言葉が思い浮かばなくて、すんなりと保健室に入った。



 

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