大神 | ナノ


何が起こったか全くわからなくて、ただ、呆然とした。

「ま!スズメという種族でくくらないでほチいわ」

「え、あ、ごめんなさい。すずめさん…あ、えっと…」

「私の名前は春雀太夫でチュ」

「は、はぁ…えーと、チュンジャクさん?」

「さんじゃなくっていいでチュよ?ところであなたは誰かチら?」

「あ、えっと、咲です」

「サキ?可愛い名前でチュね!」

笑っているのだろうか、声は明るい。表情の変化があんまりにも人間と違いすぎてわからない。
目の前にいる不思議な生き物…スズメ、のようだけれど、言葉が通じてる…人間と動物って会話できるものだったっけ。
そもそも、この大きさはなに?大きすぎる。見た目はスズメなのに、服も着てるし。
まるで、そう、おとぎ話のようだ。

「サキは、どこか行くんでチュか?不思議な格好でチュ、何かの物売りなのかチら?」

スズメ?のチュンジャクちゃんは、私の格好を見て首を傾げる。
私もチュンジャクちゃんの格好を見て首を傾げたい。
見た目は良いとして、何か時代錯誤な格好だ。周りの風景と合っていないんじゃないか?
そう思ったけれど、合っていないのはむしろ私の方で…え、私の方?
チュンジャクちゃん以外を見てみると、周りは木が生い茂っていて。

「え、私は家に帰ろうと思って……たんですけど…」

「もしかして迷子かチら?」

「迷子、なんですかね…ここが何処か、わからなくて」

訳のわからない状態に、眉をハの字にした。



「……」

「……」

「私はこれからお散歩をするの。よかったら一緒にお散歩チましょ?一人じゃ寂チいと思ってたとこだったんでチュよ」

「うん…ありがとう。ご一緒させてくれると嬉しいです」

どうすればいいのか、固まってしまった空気を緩めたのは、チュンジャクちゃんだった。
一人でいるのは、何だか怖くって、正直このスズメ?のチュンジャクちゃんと一緒にいるのも得体の知れない何かわからない生き物だから怖いけど。
ほんと、一人でいるのは怖いから。よくわからない生き物だけど、チュンジャクちゃんは何だか優しい雰囲気だ。

「ここは高宮平でチュ。どこかわからないんでチュよね?」

「たかみやだいら…全く聞いた事ない、やぁ」

散歩をしながら、ぽつぽつとチュンジャクちゃんに話を聞く。
この、今歩いているところは高宮平で、ふだんは気持ちが良い風が吹いているらしい。
らしい。としか言えないけど。
周りを見渡すと、なんだか地面が黒かったり、変な動きをしているように見えて正直怖い。空気も少し淀んでいる気がした。

「私にはよくわからないんでチュけど、あそこは入っちゃダメでチュよ。タタリ場だから危ないでチュ」

「タタリ場…?」

「タタリ場の所為で、お散歩できる範囲が少ないんでチュよ、困りまチュわ」

「そっか…」

歩いて大丈夫、というところを案内してもらって、最初の場所に戻る。
本当に、散歩できる範囲が狭い。
…どうすればいいんだろう。
歩いている時はあんまり考えていなかった事が、頭の中をよぎる。
チュンジャクちゃんに聞いた事を信じるとしたら、今私が居る世界…といっていいのかなぁ。
この場所は、かなぁり古い時代だ。
しかも、何かおとぎ話みたいな世界。
妖怪とかが出るなんて、絵本のような世界だ。チュンジャクちゃんの存在からして絵本のようだけれど、ここは本当に、現実なのかも知れない。
さっきまではよく分からないまま、今でもよくわかってないけれど、夢の中かも知れない。とか思っていた。
けれど、散歩をしてみて、道を歩いて息があがったり、土を踏む感覚からして夢じゃないと思った。ケガとかしたら普通に痛みを感じるだろう。
立ち止ったまま、散歩を始めるちょっと前のような空気が出来る。
それを変えたのは、やっぱりチュンジャクちゃんだった。

「うーん…サキは、お家はどうチたのかチら?」

「えっと…近所には、ない…ですね」

「だったらウチにきまチュか?ウチはお宿をやってまチュの!」

「お宿…?」

パタパタ羽(手?)を振りながら楽しそうに言うチュンジャクちゃんに、あれ?
と首を傾げる。
もしかして、それってスズメのお宿だったりしないだろうか。舌切雀という絵本を思い出す。
さっき、図書館で借りようか迷った絵本の中に、舌切雀があった事を思い出した。
…気のせい、だよね。

「どうかチたの?」

「あ、え、と…私お金持ってない、です」

「あら、それなら大丈夫でチュよ!だってサキは私の友達でチュもの。おっ父に言ってまけてもらいまチュ。それかツケでいいでチュわ」

「え…友達?」

「イヤなら止めとく」

「い、イヤじゃないよ!ありがとう…嬉しい。でも、しっかりお金は取るんですね」

「ウチお客さんがこなくって経営圧迫らチいの。あんまり気にチてないけど」

少し考えて、うん、お願いします。
そう返事をしようとしたら、ドンと衝撃を感じて、痛いッ!
と叫ぶ前に意識が途切れた。


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