世界は親と兄でできていた






平滝夜叉丸は怪力である。

その事実を知る者は少ない。知っているのは、四年生よりも上の学年だけだと滝夜叉丸自身そう感じていた。

幼い頃は自分の力を制御出来ずに過ごしていたが、今はそれができる。怪力と知られていないのは制御できているからだ。

そんな平滝夜叉丸の歴史を語ってしんぜよう。


それなりの位、武家の次男として生まれた滝夜叉丸は、家族に褒められ、甘やかされて生きていた。

自分より背丈の高い人間を簡単に投げ飛ばしたりしても、鬼子と罵られたりせず


「滝夜叉丸は天才だ」「なんと素晴らしい」


そう褒められ得意気に大人を振り回して遊んでいた。

兄は大人しく、供に遊んでくれたりはしなかったが、滝夜叉丸は兄が好きだった。

勉学に勤しんでいる姿がとても輝いて見えたからだ。

その姿に憧れ、兄に書を読んでもらったりと、兄の横ではおとなしく過ごしていた。

兄の横、では。の話である。

一歩兄から離れればすぐさま走り出し、周りにいる大人に遊んでもらおうと構って貰いに行く。

上司の子供には逆らえない。いつの時代もそんなものであるため、馬鹿力の子供に痛めつけられるのを大人たちは我慢していた。

生傷絶えない部下たちの状況を見て、滝夜叉丸の父母は、


「滝夜叉丸はなんと足の速いこと。それ、あそこの山まで行って参りなさい。時間を測りましょうぞ」


などと言って、滝夜叉丸を家の外に居させる時間を長くさせた。

滝夜叉丸は見目の美しい子供であったが、力が強かったので人攫いに出会っても問題はなかった。

構ってくれる大人!という判断をして人攫いを振り回して終わるからだ。

外を走り回って、帰ってきて。の繰り返し。

そんな生活の繰り返しでも滝夜叉丸は親に褒められるために、家と山の往復時間を縮めるために努力をしていた。

ちょっと時間が縮まったら、もう一つ向こうの山。

徐々に遠くなっていく往復をあまり気にしないで滝夜叉丸は走った。

これで力自慢の子供は、体力も併せ持ってしまったのである。力の制御などは全く教わったことはない。

ちょっとした石ころを握ればひび割れる。人間業ではないその力にやっとこさ気付いた父母は、滝夜叉丸をどう扱ってよいかわからなくなった。

力の加減など、筆と本を持つ時以外全くできない滝夜叉丸を、家の中に閉じ込めておくのは危険と判断して、また山へと行かせた。

タケノコを取ってこい。綺麗なお花を摘んでおいで。

言われた言葉に忠実にしたがって、滝夜叉丸は頷いた。家族の喜ぶことなら何でもしたい。滝夜叉丸の世界は親と兄でできていた。


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