同室の数寄にドッチボールに誘われてから、クラスの中に若干馴染めた私、海老名二助は保健委員の収集を受けて保健室に向かっていた。

初めての委員会にちょっとドキドキする。

他の委員は先輩方が迎えに来てくれるらしいのだが、保健委員は例外で、何故か保健室に現地集合だった。

学園にきてから保健室に入った事がない人間というのはいないので、別に構わないけど何だかちょっぴり寂しい。

数寄が生物委員会の先輩に手を引かれて出て行ったのを見たからかも知れないけれど、一つだけ例外というのは何だか切なくなるものだ。

言われた時間に間に合うだろうか。ちょっとギリギリだなぁと思いながら太陽を見て進んでいると、庭の方から ぴぎゃ と小さく音が聞こえた。

それに首を傾げて庭を見る。


「気のせいかな?」


きょろきょろと庭を見回しても何も見えない。

もしかしたら生物委員会とかの説明で動物を使ってるのかも。

そう一人で納得して保健室へ急いだ。


失礼しますと声をかけて保健室へ入る。

もう既にみんな集まってるだろうなぁ。と切ない気分になって中に入ると、そこに居たのは先生だけだった。

不思議に思いながら、どうぞとすすめられた位置に座る。


「あの…新野先生だけなのですか?」


「ええ、ちょっとみなさん遅れてるんですよ」


困った表情を浮かべる新野先生に、この委員会の人ってみんな適当な人が多いのかなぁとちょっと切なくなった。

うーん。名前覚えてないけど、同じは組の保健委員の子と一緒にきた方がよかったかも知れない。

もしかしたら委員会があるのを忘れていたのかも知れないし、先輩が呼びに来るのを待っているかも。

そう思いつつもすれ違ったら嫌だし。ジッと黙って座っていた。

若干汚れた格好の隣のい組やろ組の保健委員がやってきたけれど、まだは組の子が来ない。何だか落ち着かないなぁ。


「たぶん、もうちょっとしたら来ると思うので先に説明でもしておきましょうか」


「はい、お願いします」


そわそわしていると、先生も暇だったのだろう、委員会の説明や薬草棚のことなどを先に教えてもらった。

これだけ遅れているんだ。説明する時間も足りないだろうし、あとで同じクラスの子にも教えてあげようとぼんやり考えていたら、泥だらけの先輩が飛び込んできた。

小脇に私と同じ、は組の子を抱えている。この子も泥だらけだ。何が起きたのか分からないけれど、きた事にホッとして息を吐いた。


「遅れましたぁー」


「ご、ごめんなさい!!僕が落とし穴に引っかかっちゃって…」


「いやぁー大丈夫だてばー俺もくのたまの罠に三つほどかかっちまったしぃーなぁーせんせー?」


「ははは…他の学年はきてませんが、一年生は全員きたので今日はこの人数でやりましょうか」


「あれまぁー一年と俺だけかー仕方ねーなぁー?ちょいー探しに行ってきまーす」


は組の子を置いて、最上級生だと思われる先輩は出て行ってしまった。

せっかく出会ったのに、戻って行ったのは良いのだろうかと新野先生を見ると頭を押さえていた。

残っていて欲しかったんだなぁとちょっと切なくなる。

いきなり放置された、は組の保健委員をちょいちょいと呼んでここ座りなよとジェスチャーした。

立ちっぱで呆然としているのはちょっと可哀想だと思ったからだ。


「あ、ありがとう!」


「どういたしまして」


大きな声で御礼を言われてちょっと恥ずかしいが、御礼を言えるなんて良い子だなぁとほんわかした瞬間その子がこけた。

え、え?

びたーんと顔から行った事に若干引く。どうしてそこで転んだし。何もないじゃん。

他の組の子を見ると、思いっきり顔をそらされた。私が助けろとな。別に構わんがそんなに勢いよくそらさなくても良いじゃない。


「…大丈夫ですか?」


「…うん。ごめん」


涙目な状態に痛かったんだなと微妙な気分。

下手な転び方だったけど、あのくらいじゃ怪我はしてないだろうと手を引いて自分の隣に座らせた。

何もありませんでした。と無表情を貫き先生を見る。この状況を引き摺るのはめんどくさい。主に私が。

先生は特に何事もなかったように、自己紹介を始める。なるほど、新野先生はスルースキルが高いらしい。

い組ろ組は組という順番でまわってきた。


「一年は組の海老名二助です。出身は相模の国で、同室者は夢飼町数寄です。よろしくお願いいたします」


何を言えばいいのかわからず同室者を紹介してしまった。終わった。私変な奴扱いかも知れない。

そう思ったけど、前に自己紹介してた子達も変な自己紹介だったと認識する。

よく転ぶけど気にするな!と切れ気味に言っていた子には何だか切なくなった。何だその自己紹介。他の子も似たり寄ったりで穴に落ちるとか言っていた。


「一年は組の善法寺伊作です!えっと、僕はよく怪我しちゃうけど、みんなには怪我とかして欲しくないと思ってます。よろしくお願いします!」


ペコリとお辞儀をする善法寺くんに、君もそういう自己紹介なのか。とこれまた切なくなった。

みんなしてボロボロの自己紹介に、自分の失敗した自己紹介が薄まったような気がしたからまぁいっか。

他の組の子の名前も覚えた。一番呼びそうな、は組の保健委員の名前は善法寺伊作。よし、OKだ。

さっき一回聞いた保健室の説明をもう一度聞いて、今日は解散。次回から保健委員らしい活動をするらしい。

因みに委員長はさっき出て行った最上級生だそうだ。


「ね、ねぇ!待って、海老名!」


「はい。いかがいたしましたか?」


「食堂まで一緒に行こうよ」


さっさとおいて行こうとした私の手を握って呼びとめた善法寺くんはにこりと笑った。

全然気付かなかったけど、この子美少年の類だ。ペドに受けそうな顔をしている。少年というよりも少女だろうか。


「いやだった?」


「別に構いません」


「よかった!行こう」


ぐいっと手を引かれて歩く。

嬉しそうな表情をしている善法寺くんに、ちょっと良い気分。

けれど、何か嫌な予感がした。なんで嫌な予感がするんだろう?


このあと、食堂まで行くだけなのに罠に六つかかり、脱走した毒虫に集られ酷い目にあった。

今日の占い、もしかして最下位だったかも知れない。そして善法寺く…もうめんどい。善法寺は何もない所で五回転んだ。

可哀想になったので夕飯を食べたあとに長屋まで送ってあげた私は偉いと思う。



 

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