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キミに、愛を誓おう


※11主の名前はイレブンです。




旅をしていた。
仲間と共に世界中を巡り、闇を打ち払う。
それはそれは大きな旅。
楽しかったこともあれば胸を裂くような悲しいこともあった、数々の魔物達と死闘を繰り広げたこともあった。
その中で、キミと……イレブンと、奇妙な関係になったのはいつからだっただろうか。


初めて会ったのはナプガーナ密林。
学者という訳では無いけれど、ロトゼタシアのいたるところに分布している遺跡に興味があった私は、旅の途中で密林にある遺跡の柱を調べるために秘境と名高いナプガーナ密林に足を踏み入れていたの。
鬱蒼と生い茂る樹木の合間にそびえ立つ遺跡の跡を意気揚々と調べていたけれど、奥に続く橋が壊されていてどうしようもないから引き返そうかと思ったそんな時に、キミに、出会ったんだ。


「キミ、こんな所で何をしているの?」
「遺跡の跡を見に来ていたの。貴方は?」
「ボクは……この先にある村に行きたいんだ」


それが、初めて交わした言葉。
私を見た瞳は不安げに揺れていて、だけど綺麗で、温かさがあったのを覚えている。
隣に居たキミの仲間、カミュはこちらを警戒していたけれど日が沈んでしまった夜に密林を歩くのは危ないと双方判断して、共に火を囲んだんだっけ。
そして朝を迎えて、密林を抜ける方法を探すため共に行動することになって、イレブンが勇者であることを知って……。

今思えば大分不謹慎な理由かもしれないけど、勇者の前に広がる未知の世界を見てみたくて、着いて行きたいと思ってしまったんだ。二人は追われている身だから勿論反対されたけど、呪文と料理とついでに薬学も得意だと交渉すれば、悩んだ挙句に許可が出たんだ。
確かあの時は嬉しくって、私は飛び跳ねたんだよね。


「よし、じゃあ進もうぜ。イレブン、ナマエ」


そこから三人旅が始まった。
……そうだ、奇妙な関係が始まったのはデルカダール神殿前のキャンプからだったっけ。
自らの故郷の崩壊、そして三角岩での出来事。
衝撃的な事実を前にして、大丈夫そうな様子だったけど少しは精神にきていたのだろう。火花が散る焚き火を見つめる中、キミは隣に座っていた私の手にそっと自分の手を重ねてきたんだ。


「……イレブン?」


突然の事だったから驚いてイレブンの方向を向き、顔を覗き込んだ。どうしたのと聞こうとしたけれど、顔を伏せたキミから小さな「ごめん」の呟きが聞こえて、そして手が震えていたのがわかったから、重ねられた温かな手を振り払わずにそのまま何も言わないでいることにしたんだ。

異性に手を重ねられるなんて経験は今まで無かったけど、こうやって頼られるのはなんだか嫌じゃなくて。それに、出会って間もない間柄だったけど勇者も運命に翻弄される一人の人間なんだと実感して、どうにかこのイレブンの支えになれたらとも思ったんだ。


「ナマエ、隣いい?」
「うん、どうぞ」


悪魔の子と呼ばれ、王国から追われる勇者イレブン。その隣に立ち、迷った時には手を差し伸べて、言葉を掛け、戦闘で傷付いた時は呪文を唱えてあげる、そんな自分が出来るだけのサポートをしていった。

その中で、キャンプで夜を過ごすことになれば必ずイレブンは私の隣に座り、私の手に自分の手を重ねてくるようになった。
本当に、キャンプの時だけ。
……イシの村の時のようなことが無くても、だ。
少し不思議ではあったけど、なんだか心を許されている様な、心の支えになれている様な気がして嬉しかったし、やっぱり手を振り払う気は起きなかった。


「ナマエは、何が好きなの?」
「私?うーんそうだなぁ……甘い物とか好きだし、本を読むことも好きだし、こうやって旅をすることも好きだよ」
「……あははっ、いっぱいあるんだね」


共に橙色に輝きを放つ焚き火を眺めて、何気ない話をする。
勿論、この時も手は重なったまま。
仲間の誰にも、私達が手を重ねていることは気が付かれなくて、2人だけの秘密ができたような気がしてちょっと私はわくわくしていたんだ。


「……ねえ、ナマエ。ボク、ナマエの故郷に行ってみたいな」
「私の故郷?」


闇を打ち払うチカラが眠っているという命の大樹まで後少しという時、キャンプ一体にセーニャが奏でる竪琴の音が響く中で、キミはそう言ったよね。


「うん……ウルノーガを倒して、全部終わったら。だめ…かな」
「ううん、そんなことない!おいでよ。ちょっと田舎だけど、のどかでいい所だよ。きっとイレブン気に入ると思う」


暫く経ったら帰るね、って約束してたし丁度いい。お母さんのシチューはとっても美味しいんだよ、と笑い掛ければキミは嬉しそうに目尻を下げて微笑んだんだ。


「……うん、じゃあ、約束」
「もちろん!私特製の爆発料理も作ってあげるからお楽しみに!」
「ぷっ…あはは!なにそれ!」


演奏を妨げない程度にくすくす、と小さな声で笑い合う。
私達の間には穏やかなひとときが流れていたんだ。本当に、本当に、穏やかな時間が。
共に旅する仲間だけど気の合う友達みたいで……手の重なりから始まったなんとも言えない奇妙な関係だったけど、何気ない事を話したりするのは楽しくて。

この時間が、悪を打ち払った後にも続くんだって思ってた。キミと……イレブンと見る世界は常に新しかったから、まだまだいろんな未知の世界を見れるってそう信じていたんだ。だけど、




全部、壊れてしまった。




────命の大樹が、落ちたのだ。




暴風が吹き荒れ、魔力は吹き荒び、岩石は空から振り落ちて、母なる大地は炎に包まれた。
凶暴化した魔物達は村や街を襲い、闇によって太陽の光は届かなくなって、世界は、ロトゼタシアは、魔王ウルノーガの手に堕ちてしまった。

だけど、そんな絶望的な状況でも軋む体に鞭を打って歩いた。
どうして大樹じゃなくて、こんな所にいるのかなんてわからなかったけど、歩き続けた。
だってキミが、そんな簡単に死ぬはずがないって思ったから。あの温もりが、消えることなんてないと思ったから。
それに他の仲間達だって、簡単にくたばる人達じゃないって知っていたから。だから、燃える大地を歩き続けた。
それから各地を回り、魔物達の襲撃をなんとか掻い潜って、キミと再会したのはそれから半年後。




自分の故郷の崩壊を、知った時だった。




「……うそ、だ」


村が、母が、どうなっていたのかは常に心配していた。だけどすぐに向かうことが出来る場所には無くて、地形の変化も重なって、辿り着くに時間が掛かって───。
半年程経った今日、やっと辿り着けた。でも、


村があったはずの場所に見慣れた風景は無かった。ヒトの形をしたナニかと、家屋だったモノが散らばっているだけ。たったそれだけ。
それだけ、だけど、


その日、私は初めて膝をついた。
へたりと力が抜けて茫然と跡を見つめる。
……そんな時だった、キミと再会したのは。


「……ナマエ?」


後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。聞き焦がれていた、優しい声が。
でも、振り向く事が出来ない。頭の中がぐちゃぐちゃで、何も、考えられない。


「……ごめんね」


駆け寄ってきたイレブンに、咄嗟に言えた言葉はそれだけだった。
イレブンは伏せた私の顔を覗き込んでくる。だけど私は、その温かい翡翠色の瞳を見たくなくて、視線を逸らし続けた。


「ごめ、ん。約束…守れない、や」
「……!」


約束。
その言葉だけで、キミはここが何処なのか気づいたのだろうか。息を呑む声が耳元で聞こえたような気がした。
そして次に視界が動いて、キミの胸に顔を埋めていた。驚いたけど、私の身体を包み込むキミは温かくて、とても安心して、涙が溢れ出たのを覚えている。本当に……本当に、温かかったんだ。







「…行こう、イレブン」


私は、もう一度歩き始めた。今度は仲間と共に。
魔王ウルノーガを倒して、冥府を彷徨って大樹へと行けない村の人達の魂を救うために。目標は最初と変わってしまったけど、私はまた、立ち上がって歩き始めた。


「ねえ、ナマエ」
「…なあに?イレブン」
「ううん、なんでもない」


再会してからのキャンプは以前と少し変わって、手を重ねられるんじゃなくて、手を握られるようになった。でも、嫌じゃない。
キミの温もりはどうしてか心地が良い。


「イレブン?」


私の頭を撫でてきて、愛おしむように髪に指を通してくることだって、


「わっ…どうしたのイレブン?」
「…………ううん、」


頬にするりと手を添えられて見つめられる事だってされるようになったけど──やっぱり嫌じゃなかった。むしろ、もっと、その温もりを感じていたいような気がしていたんだ。

どうして、こんな事をするんだろう。
疑問に思って理由を問いかけても、イレブンは穏やかに、楽しそうに翡翠色の瞳を細めてこちらを見つめるだけで、私の問いかけに答えることはなかった。
今思えば、私を見つめるその瞳は今までよりも熱が篭っていた様な気がする。


「ねえ、ナマエ。全部終わったら、イシの村に来ない?」


キミは、最後のキャンプの日にそう言ってくれたね。嬉しかったんだ、本当に。嬉しかった。
全てが終わった後の事なんて、怖くて考えられていなかったけど、またキミと一緒にいられるかもしれないって思ったら、未来は明るいものに思えたんだ。


でも、やっぱりそんな事はなくて。
全てが終わった今、勇者であるキミは過去に飛び立とうとしている。




「…イレブン」




キミは光り輝く時の祭壇へと歩いていく。
止めることなど出来ない。引き留めることなど出来ない。だって私達は、今まで進み続けてきたから。キミの歩みに助けられたから。
それを止めることなんて、出来ない。
繋いでいた手は、離れていった。

キミは輝く。時のオーブに一閃を放ち、光に包まれていく。


「……ごめんね、ナマエ」


キミの口がそう動いた様に見えた。
ああそっか、もうキミと手を重ねることは無いんだね。その温かな手が私に触れることは、無いんだね。
……それは嫌だな、寂しい、な。


「……イレブン、」


キミが消える状況をやっと呑み込めたのだろうか、視界が滲んでいく。キミの姿が霞んでいく。
どうして今になって気付いてしまったんだろう。
キミとの奇妙な関係は、全然嫌じゃなかった。むしろ触れられるのは心地好かった。
どうしてこんなことをするんだろう、なんて不思議に思っていたけれど、あの夜の熱を帯びた翡翠色の瞳だってなんとなく意味を分かっていたはずだ。
バカだなぁ、私。気付くのが遅いよ。


「イレブン!オレ達はもう一度、お前と旅をするからな!」


仲間の叫びが祭壇中に響き渡る。
その中で一つ、心に思うことがあった。
それはやっと気づけたこと。私の気持ち。
きっと、私は、



────キミが、好きだったんだ。









旅をしている。
仲間と共に世界中を巡り、闇を打ち払う。
それはそれは大きな旅。
その中で、キミと……イレブンとは奇妙な関係を繰り広げている。
だけど、そんな旅も、闇を打ち払うチカラがあるという命の大樹まで後少しという所まで来た。


「ねえ、ナマエ」
「ん?なあに?」
「……なんでもない」


だけど、聖地ラムダを出発してからキミの様子がおかしい。
キャンプで隣に座ってきても、手が、重なることはなかった。……どうしたんだろう、いつもならふわりと温かな手を重ねてくるのに、不思議に思って隣に座るキミを見る。
何故だか一瞬、別人のように見えた様な気がした。


「……?」


目を擦ってもう一度見るけど、風になびく亜麻色の髪と静かに佇む翡翠色の瞳はいつもと変わらない。
でも、やっぱりどこか固い感じがする。聖地ラムダでは突然姿が見えなくなったし、何かあったのだろうか。
……気になるけど、イシの村の時のように落ち込んでいるようには見えない。なら、大丈夫なのかな。


そう、思っていたけど、その違和感はいつまで経っても消えなかった。
命の大樹で闇を打ち払うチカラを手に入れても、デルカダール王に取り憑いていたウルノーガを倒しても、キミはどこか違うように思えた。
それにあの日から手が重なることは無くなったし、キミが隣に座ることも無くなった。
戦闘中も、普通の会話も、なんだか避けられているような気がした。

別に、良かったんだ。私の支えがもう要らないというのなら。
私はキミの前に広がる未知の世界を見れれば、それでよかったんだから。
だけど、だけどどうして、こんなに物足りないと感じるんだろう。



──そんな時、夢を見た。



世界はめちゃくちゃになり、自分の故郷は滅んでいて、どこか見知らぬ祭壇でキミが光に消えていく夢。周りにいる仲間は何かを叫んでいるけれど、私は何も言えなくて、何も出来なくて、ただキミを見つめている。
たったそれだけ。
だけど、目覚めたらどうしてか夢とは思えなくて。見た後に残ったのは虚無感と、何かを忘れているようなもどかしい感覚。

こんなもやもやした心のまま、もう一度眠りに就くなんて器用なことは出来そうになくて、皆が寝静まっている中で一人焚き火に火をつけた。


「……ナマエ?」


気持ちを落ち着けるために夜空を眺めていれば、キミはこちらに歩いてきた。
もしかして、起こしてしまっただろうか。


「イレブン…ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、そんなことないよ」


イレブンはそう言いながら私の隣に座った。
だけど、手が重なることはなく、二人で静かに火を見つめる。
今までこの静寂はなんてこと無かったはずなのに、あの夢を見たせいだろうか、もどかしくて、寂しくて、ぽつりと言葉を吐き出してしまった。


「夢を見たの…故郷が滅んでいて、キミが、イレブンが、光に包まれてどこかに行ってしまう夢」
「……!」


キミが息を呑む音が聞こえた。
だけど、一度吐き出してしまった言葉は止まることはなくて、気にかけることなんて出来なくて、いままで閉じこもっていたもの全部がキミに流れていく。


「いや、だ。いやだ…イレブン!置いて、いかないで…一人に、しないで……!」


いつの間にか私は泣いていて、嗚咽が零れていた。
わからない、どうしてこんなに涙が溢れ出てくるのか。どうしてこんなに突き動かされるように言葉が出てくるのか。
突然泣き出して縋り付くなんて子供みたいな真似、おかしいから、キミを戸惑わせてしまうから、早く止めたいのに、止まらなくて。
こんな状態をキミに見せるのが、恥ずかしくて、どこかへ逃げようとする。
だけど、次の瞬間にはグイッと手を引っ張られて、キミの胸に飛び込んでいた。


「え……?」
「……ごめん。ずっと考えていたんだ、ナマエに触れていいのか……ナマエの傍に居ていいのか。あの時ボクは、キミを置いて行ってしまったのに……!」


耳元でキミの震えた声が聞こえた。
私の身体が、キミの温もりに包まれている。
……あれ、前にもこうやって、キミに体を預けたことが無かったっけ。


「だけど、やっぱりボクはキミが……ねえ、ナマエ。全部終わったら、イシの村でキミに聞いてほしいことがあるんだ。今度こそ、絶対に」
「うん、」


自然とキミの体に腕を回して抱きしめ返す。
イレブンが何のことを言っているのかははっきりと分からなかったけれど、触れている体温が温かくて、心地好くて。
何も失っていないのはずなのに、大切なものを取り戻せた様な気がした。


「約束、しよう」
「う、ん…!」


コツン、とお互い額を合わせて見つめ合う。
もやもやと疑問が全て晴れたわけじゃない。だけど、求めていたものを得た気がして、心が喜びに満ち溢れていた。
離れていた手はいつの間にか繋がっていて、そのまま二人揃ってボロボロに涙を流したまま、夜が明けるまで抱きしめ合っていた。







それから月日は流れ、約束の日。
イシの村で、キミが待っている。
風にそよぐ花畑の真ん中には、キミがこちらに手を差し出したまま微笑んでいて───


旅をしていた。
仲間と共に世界中を巡り、闇を打ち払う。
それはそれは大きな旅。
楽しかったこともあれば胸を裂くような悲しいこともあった、数々の魔物達と死闘を繰り広げたこともあった。


伝説のかたわらで──いや、伝説は一旦終わって、これから先はきっと、私達の物語。
そんな、共に駆け抜けた伝説の果てで、


──キミに、愛を誓おう。


そうして私達はまた一歩、前に進む。
可憐に咲く花逹が、私達を未来を祝福しているような気がした。



歴代勇者夢企画「伝説のかたわらで」に提出させて頂いた作品です。素敵な作品が沢山あるので是非覗いてみてください。
2018.09.30