4主
冷涼な風が身体を撫でている。
ぷかぷかと浮かぶ気球は目的も無く空の海を漂っていて、ゆったりと時が流れているように思えた。
「いやぁ、やっぱり気持ちいいねぇ」
目の前にいる少女は、空に向かって大胆にも身を乗り出していた。
大方、下に広がる陸地を眺めているのだろう。ぶらぶらと手を伸ばしては街の名前を叫んでいる。
「おい、あんまりそうやってっと危ないぞ」
「だいじょうぶ〜!」
ひらひら、と緩く手を振られる。が、そうは言われてもあまり説得力が無い。この前も同じように謳っておきながら、滑り落ちそうになったのはどこのどいつだったろうか。
あの時は咄嗟に支えて間に合ったから良かったものを。こんな高さから落下していたら今頃は海の藻屑だっただろうに。
あんな心臓が止まるような思いはもう沢山だ、と仲間達と呟いたことを思い出す。
「ねえ、ソロも一緒にやろうよ! 気持ちいいよ〜!」
「いや、オレは別に……」
「え〜!? ソロ、前もそう言ったじゃんか〜」
「……わかったよ。やればいいんだろ、やれば」
落としていた腰を上げて、バスケットにもたれ掛かる。少しだけ上体を外へと傾ければ、旅の初めの頃には見るとも思っていなかった雄大な景色が目に入ってきた。
びゅう、と風が絶え間無く吹いている。
冷たいそれは、乗り出した身を強めに撫で上げてオレ達の髪の毛が宙に舞わせた。隣の少女は微笑んだままで、酷く穏やかに心地に浸る。
なんだか、勇者の使命なんてちっぽけなものに思えてきた。
「……まあ、たまにはいいな。こういうのも」
「でしょ〜! ソロ、絶対気に入ると思ったんだよ〜」
「は、なんだよそれ」
「えへへ〜」
得意気な顔でにんまりと笑われる。
その緩いとも言える微笑みが無性に擽ったくて、思わず減らず口を叩いた。
「ねえソロ、またやろうね」
初めは恐る恐るといった表情で、「気球に乗りたい」とオレに言ってきたというのに。蓋を開けてみればこういう事だったとは。
調子のイイ奴。
そう言って、隙だらけのデコにデコピンを放ってやれば、少女は面白い声を出した。