11主
ワンライで書いたもの
暗いので注意。
「私ね、あなたのことが大好きだったの」
私の言葉を聞いたイレブンは、それはそれは面白い反応を示してくれた。久しぶりに会ったからだろうか。それとも、こんな突拍子も無く愛の言葉を呟いたからだろうか。
清き血筋を証明する翡翠色の綺麗な瞳は荒い海面の様に揺らいでいる。
その翠は、この世界──ロトゼタシアの構成する最大の要素、命の大樹が吹き飛んでも消えぬ勇者の輝かしい光だった。
力強い眼差しは彼の存在を悉く主張して、世界に示す。ああ、なんて素敵で。なんて魅力的なのだろう。
優しくも、強くもなれる不思議な瞳。それはジリジリと照らしつける太陽のような熱いものでは無く、朗らかな陽だまりの様に優しさがあって。
私は、その瞳で優しく笑い掛けられるのが好きだった。
「久しぶりね、イレブン?」
「……うそ、だよね」
でも、もうそれを見ることが無くなってしまったのは残念だと思う。
だって私は変わってしまった。だって私は終わってしまった。笑い掛けて貰える資格を、私は失ってしまった。
くるり、とドレスを見せびらかすようにその場で一回転をすれば、綺麗な瞳はより一層揺いでいく。
「うふふ、どうしたの? そんなに怖い顔をして」
「……こんなの。こんなのっ、嘘って言ってよ! ねえ、ナマエ!!」
にたり、と効果音を付けたように笑えば、眼の前で広がる光景を受け入れられないのか、イレブンは──勇者は、私を突っぱねるように叫んだ。
翡翠の瞳に映るのは、変色した人間の身体。共に苦楽を共にしてきた仲間が、少し見ない間にこんな禍々しい魔力を携えて魔に堕ちていたと知ったのなら、確かに驚いてしまうだろう。
でも、それにしたって。なんて──なんて、無様な姿なのだろう。世界が崩れ去ってからあんなに勇ましく突き進んでいた勇者が、こんな表情を見せてくれるだなんて。
本当に、面白い。
こんなことを思ってしまう私は、きっととっくににおかしくなっていたのだと思う。幸い、不確かな淡い過去の恋心のお陰で一瞬でもかつてのように振る舞えたけれど。
限界が近付いて来ていた。あの綺麗な男の術が、今になって効いてきていた。
「ねえ、イレブン」
「っ、ナマエ……どうして」
「私ね、あなたのことが大好きだったの」
「ボクの話を聞いて! ナマエ!!」
「だから、こんなの終わらせたかった」
「ナマエ! ねえ、ナマエってば!!」
言葉を放っても、会話は噛み合わない。
困った、時間がもう無いのに、これじゃあ目的が果たせない。
なら、もう。強引にでも、動かなくっちゃ。
「イレブン、私ね」
「ナマエ……?」
もう遠い過去に消えてしまった優しい音を含ませて、目の前の男の名を呼ぶ。
やっと意思疎通が出来ると思った男は、警戒もせずに私に近づいて来た。
手には、剣が握られている。
私はその手を掴んで、ぐいと引き寄せた。
「──貴方に。はやく殺して、欲しかったの」
「…………え?」
終わりまでは一瞬だった。そう、まるで鳥が水面から旅立つみたいに呆気ない。
四方に飛び散る血飛沫を見つめる翡翠の瞳が、呆然と輝いている。
この傾く身体が地面に堕ちた時、キミは悲しんでくれるのだろう。優しい君は、こんな無様な私にも涙を流してくれるのだろう。
そんなキミだから、私は。私は────
「……なんて、無様」
思い出したってどうにもならないことを思い出してしまった。
私は最後にくつりと笑って、瞳を閉じる。
いつの日か、伝えられる日があったのなら。
────私は、キミが好きだった。