01 無事に司さんと視察を終えて帰ってくる頃には、周囲一帯は鮮やかな夕暮れに包まれており、まだ骨組みと屋根しかない大きな食堂予定場に皆で集まって会食をしてから本日の宿に案内されたのだけれど。 「司……。此所は君の家じゃないか」 「すまない。少し前に人員が増えたから建物の人数の割り振りなどを変更したばかりで、女性専用の建物はいっぱいいっぱいなんだ。 ……風紀的な安全面なども考慮したら、此所が一番安全なのかなと思ってね? 自分の家と思って気にせず使ってくれ」 「お邪魔します〜」 他の人が寝泊まりしている所は、二・三階建てでそこそこ部屋数がありそうな大きめな建物なのに、別荘とかであるコテージのような家に通される。 こじんまりとしたリビングには大きめの暖炉が据えられて煙突が伸びている。 モノが全然無くてシンプルな内装のわりには、ところどころにそっと飾られている花や貝殻で出来たアクセサリーが飾られていて、木の調度品とマッチして落ち着く空間になっていた。 「この上に部屋が二つあるんだが、片方はほぼ使って居ないから君達で使って欲しい。未来と俺は隣だから、何かあってもすぐ対処出来るよ」 「ハッ、私がいるのだぞ?無用な心配だ。 そもそも、君の家で狼藉を出来るような命知らずはおらんだろ?」 「フフ、そうだね」 「そんな危ないことがあるんですか…?」 「まあ……全く危険がないとは言えないからね。何しろ、此所は男所帯だからさ」 旧司帝国は武力や狩猟を重点に置いて人を選別して復活させているため、男女比は石神村と比較にならないくらい偏りがある。 そうすると出来る事などにも酷い偏りが生まれてしまう。 農作業や狩猟・建築作業はスムーズな代わりに、他の面は石神村よりもかなり遅れてしまっている。 それらは、食事を含めた衣食に顕著に出ていて、家事の担い手が全然いないのも大きな問題の一つだった。 いくら元気な男性といっても育ち盛りの年齢の若者たちが同じようなメニューをローテーションで食べ続けるわけにもいかない。 そのアンバランスを埋めるためにも、やや男女比の改善なども図りつつあるのだけれど、そうなると当たり前ながら男女の問題も出てきてしまう。 今まで司帝国にいた女性陣は腕っ節が強い者が多かったが、非力な女性が増えれば良からぬことを考える連中も現われる。 そのために男性と女性の居住区はやや離しており、女性側には夜には出歩かないことを頼んで警備なども付けている。 今の所、把握している範囲では犯罪などはないが、全く危険が無いとも言えない。 「そういった面も含めて、女性の居住区は俺の家の近くになっているんだ。 君達は特に千空が目をかけているから、少しでもそういった可能性を潰しておきたくってね。了解して貰えるかな」 「ハ、わたしは構わんぞ」 「私も大丈夫です。むしろ、お気遣いありがとうございます」 「ありがとう。そうだ、君には妹を紹介しておかないとね」 「未来、いるかい?」と少し声を張って二階の方へと声をかけると、声を張るように返答しながら小さめの足音が階段を降りてくる。 ひょっこりと姿を現した金髪の幼い少女は、私とコハクを見ながらパチッと目を瞬かせた。 「未来。客人だ。作業が落ち着くまで二人はしばらくウチに泊まって貰うことになる。 空き部屋や家の周りのことも教えてやって欲しい」 「あーね。任せてよ、兄さん」 司さんのお願いに対し、嬉しそうに笑いながら初対面な私と未来ちゃんとで軽く自己紹介をしあう。 茶色の髪に長身の体格の良い美男子の司さんと違い、華奢な少女の未来ちゃんは幼いながらも受け答えがはっきりしていて、見た目よりもすごくしっかりしてそうな印象を受けた。 将来的には間違いなく美女になりそうではあるけれど、兄妹にしては全然タイプが違う2人だ。 「ねぇ、名前聞いて気になっとったんだけれど……チェンバロの人であっとる?」 「あ“、ハイ」 そっか。龍水さんが至る所でCDを売りさばいていれば、此所でも配られていないわけがない。 自分の知らないところで自分の事を知ってる人が増えていると思うと、なんだかすこし痒いような感じはあるけれど。 ふと未来ちゃんの顔をみると、まさに「パァッ」というような笑顔で嬉しそうに笑いかけられ、思わずコッチも笑い返す。 「私、ファンなんよ!販売してるレコードは、兄さんに頼んで買うてもらってて、今の所全部揃うてる!嬉しい!あとでサイン貰ろうても良い!?」 「光栄です。サインとかした事ないんで、ただの名前になっちゃいますけれど。 それで構わないのなら」 「もちろんもちろん、ええよ!」 「良かったね、未来」 「イシシッ。有難う、兄さん!!ほんま、嬉しいわぁ!」 頬に両手をあてながら本当に嬉しそうにキャーキャー笑っている未来ちゃんに、司さん含めて皆でホッコリした空気に浸る。 成る程。司さんにとっては私達を此所に泊めるのはある意味一石二鳥だったのだろうな。という考えが脳裏を掠めるも、そんなことがどうでも良くなるくらい目の前で喜ばれてていて、どうしても表情が緩んでしまう。 「楽器はないの?生演奏、聴いてみたいわぁ」 「チェンバロは持ち運びが大変だから持ってきてないの。ごめんね」 「あちゃー。残念やわぁ…。 いつかライヴとかやるって言ったら絶対行くから、教えてね」 「じゃあ、必ず一番に知らせする。聞いた事ある曲ならリクエストも受け付けるよ」 「やったーー!」 未来ちゃんと手を握り合いながら約束を取り付けていると、脇に立っていた司さんに「そう言えば、楽器はあるかもしれないよ」と言われ、二人してそのまま声を上げた。 「何処で!?ちなみに、どういう楽器ですか!!?」 「ちょっと職人に心当たりがあってね。と言ってもチェンバロとかじゃなくて、和楽器なんだ。一応、うん。取り次ぎはしてみよう。会える日取りが決まったら、改めて知らせるよ」 「お願いします」 ×
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