-奪われた真実-04 

「んしょ、んしょっ」


森の少し奥の泉まで水を汲みに来た少女は、少し重たそうに入れ物を持って泉に近付く。


力仕事は出来ない子供は主に水汲みが仕事であり、いつものように少女は泉にやって来た。


しかし、水が湧いているところについた時、ザワっと木々がざわつき、ふいにエレナは胸騒ぎを覚えてキョロキョロと辺りを見渡した。


ザザザ…と樹木が警鐘を鳴らすように揺れ、少女は怯えたような表情をして泉へ駆け寄る。



早く両親の元へ帰らなければ。


何故かそう思いながら泉の水を汲み上げようとした時、黒い影が上から射して泉へ映り込んだ。








「見ぃーつけた♪」






「!?」
「こんな遠いところに居ちゃ、双子は分かんねぇな」


ペガサスに跨がり、くるくるとシルクハットを回しながら、ニヒルに笑う男。


その男は間違いなく、メフィストフェレスの杳馬だった。



それを一瞬で『怖い人』だと感づいたエレナは頭を押さえて小さな悲鳴を飲み込み、震える声を振り絞った。



「"か、いろす"…っ」
「ほう……」


小さな体から小宇宙が漏れ、大地が少女を守るように包み始める。


「厄介な眼を持ってるんだねぇ…おまけに女神様の意志にも目覚めかけてる。女の子は早熟だと聞くがホントだね」


でも、あんまり騒いだら双子に勘づかれちまうよ。


ポケットから時計を取り出すとカチっと小さく音が鳴る。
すると一瞬の内に少女の懐に飛び込むと、怯えている顔へ手を伸ばしてその額に触れた。



「エレナちゃんには悪いけど、全部封じるからね」
「…ん…」
「聖戦が始まったら、時期を見て解いてあげるよ」


ニィっと笑い、少女の頭に手を置くと、瞼は落ちて男の腕の中へと倒れ込んだ。



「良かったねペルセポネちゃん。大好きな旦那様に会わせてあげるよ」


さて、おいとましようかね。と少女を抱き上げて浮き上がろうとした瞬間、バチッと火花が辺りに舞い、黄金の光が少女の体を覆った。




「その子から離れなさいッ!!」


林から飛び出し、怒りを剥き出しにする母親の姿に、杳馬はニヤリと笑みを漏らして離れた。



「エレナ!!」

倒れている娘に駆け寄り、気絶しているだけだと悟ると安堵の息を漏らし、キッと目の杳馬の男を睨みつけた。



「あなた誰?双子神でもなければ、ハーデスでも無いようだけど」
「んあ?なんだなんだァ?あんた、その子供が『何』か知ってて育ててんの?」



ぎゅうっと娘を腕に抱きしめ、真っすぐ杳馬を見据える母親。

その姿が、ある女の面影と重なる。




「………なーんか、パルティータちゃんと被ってやりにくいなァ」
「?」


ふぅ…とため息をついて帽子を深くまで被ると右手を掲げ、光が手の平に収束する。



「悪く思わないでね?」
「!」


真っすぐ放たれた攻撃を前に、母親は素早く懐から何かを取り出した。



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