-春乙女-07 

「その洗い物、エレナが全部やるのか?」
「ええ、そうよ」



修業をしながらも女官の仕事を手伝いを始めたエレナの日々は多忙で、お目付け役のレグルスはそれを好奇心に満ちた目で見つめていた。




(……にしても、)

水場での仕事の為、エレナは衣の長い裾をたくしあげ、金の髪も雑に一つに結んで作業をしていた。

白い生足が惜し気もなく晒され、少々目に毒である。



「……う――ん……」


小さく唸る若獅子を見たエレナは、裸足のままレグルスに寄る。



「レグルスもやってみない?」
「え、お、おう」
「干す前にシワを伸ばして欲しいのだけど…………こんな感じに」



手本としてやってみたエレナをジーッと見つめたレグルスは濡れている布を手にとる。


が、



「わぁ!」


力が強すぎたのか、ビリッ破れてしまいレグルスの顔が青ざめる。



「わ、わりぃ……つい」
「力強すぎたのね。大丈夫、この程度なら後で縫うから。……もう一回やってみる?」
「うん……次は絶対成功させるからな!!」



クスクスと笑ったエレナを余所に再び布を手に取ったレグルスの顔は真剣そのモノ。


神経を集中させると、次は綺麗なモノを干せたようだ。


……どうやら、彼の熱心さは戦闘のみに注がれるわけでもないようだ。



揺れていた洗濯物を見つめていたエレナの耳に小さな鳴き声が聞こえ、その姿を探す。



「あ……」


ピィッと鳴きながら旋回して肩に止まり、スリッと頬に擦り寄った。



「よしよし、ごめんね。もう少し待ってて?」
「ピィッ」
「!」


再び肩から飛び立ち、邪魔にならない所に止まってジッとエレナを見つめる。

その光景を見たレグルスは、信じられないというような目でエレナと小鳥を交互に見た。



「何?どうしたの?」
「……エレナ、鳥と会話出来るのか?」
「……あぁ。別にそういうわけじゃないの、何となく分かるってだけ。私よりも、あのコの方が賢いの」



洗濯を終えると肩に止まって愛らしく鳴く小鳥を、はいはい、とあやすエレナ。



「………」


レグルスは目をパチパチさせながらそれを見るも、首を傾げた。



「………やっぱ、不思議だよなエレナって」



ポソッと呟いた言葉は掻き消え、「レグルスお昼にしよう?」と言う甘い誘いに喜んで尻尾を振った。



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