-春乙女-06 

「ヒュプノス」
「……」



椅子にもたれ掛かりって瞑想していた眠りを司るヒュプノスは片割れが己の領域に侵入して来たのを悟ると、目を開き冷えた紅茶を喉に通した。

ヒュプノスの向かい側の椅子に腰掛けたタナトスは、テーブルの上にチェス盤を出現させると駒を動かした。

それを冷めた目でみていたヒュプノスも、駒を取る。



「今までどこに行っていたのだ?」
「……聖域におられる我等の姫君の元に」
「ほう」



コツ、と駒を進め笑みを深めた。


「確か今生のペルセポネは器の少年の傍におられたのであろう?ならば、今回は余計な小細工をする必要はないだろう」

「アテナの傍に居る以上、安心は出来まい。人間共が変な気を起こすかも分からないのだから」



カッと駒を盤に強めに置くヒュプノスを見、タナトスは目を細めた。





「何故お前があの女神にこだわるのか、俺は理解出来んな。利用価値がなくば、捨てれば良いであろう?」



駒を進め、ヒュプノスの駒を弾くと白い駒は床に落ちて転がっていった。

カツ、と靴に当たり小さく音を立てて止まる。



「………タナトスよ。いい加減学ぶが良い」



ヒュプノスは足元へ転がってきた白い駒を拾い、卓上の駒を取った。





「そのような小さな"綻び"がいつも奴らを勝利へ導いているという事に」




チェックメイトだ、と告げるとタナトスは眉を寄せた。




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