-春乙女-10 

「アルバフィカ、先日教皇に花を届けにきた村の少女を覚えていますか?」




マントを彼に返し、腰を落ち着かせ紅茶を飲み、一息ついた頃にそう切り出した。


「ああ」
「彼女、アガシャと云うのですが『マント助かりました、ありがとうございます』と言っていました」
「………そうか」



(あ、)




微かに、彼の表情が綻んだ。

よく見ていなければ分からない変化だろう。



なんだかコチラも嬉しくなって、カップを置き彼を見据える。



「あと、貴方についてこんな事も言っていました」




"お綺麗で、言葉が鋭いから冷たいと誤解されやすいけど、本当は誰よりも相手の事を考えていらっしゃる"



「!」
「『とても強くて、優しい方―――……』と」
「…………そうか」


紅茶を口にしながら顔を逸らした彼の頬は僅かに赤らんでいた。


彼は人に慣れていないという印象を受けていたが、そうでもないのかも知れない。


それに、きっと好意を持って近付く人間を、彼は拒否しない。 ……ようは、その身に近付きすぎなければいいのだ。



ほとんど一方的に話かけ続けるも、彼は特に嫌な顔をせずにちゃんと返答を返してくれる。


紅茶が尽きるのを見計らって、そんな囁かなお茶会に幕を引く事にした。

「じゃあ、私はそろそろ失礼しますね」
「あぁ」


空のカップを盆に置いて持って立ち上がると、アルバフィカは何も言わずに扉を開けて待ってくれる。


扉をくぐった時、再びあの墓石が目につくとアルバフィカも追うように視線を向けた。




「……あの墓は、我が師ルゴニスのモノだ」
「貴女の師……?でもどうしてこんな所に」

「彼は、人と触れ合えない人だったからな。……師から受け継いだこの誇りを守る為にも、わたしは今ここにいる」




真剣な眼差しで遠くを見つめるアルバフィカ。


なんと絵になる姿なのだろう…と、ついため息が漏れる。


薔薇の花吹雪の中に踏み込むと、後ろから小さな声が聞こえた。

「今日、話せて良かった」
「……私もです」


確認せずとも彼が微笑んでいるのが分かり、振り返らずにそのまま薔薇園を出て行った。




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