-春乙女-05 いち早く教皇宮に帰還したハクレイは大股で教皇セージの元へ歩み寄る。 教皇は、そんな兄の様子に首を傾げた。 「どうなされた、兄上」 「先程、エレナ様の御身の傍で眠りの神の気配を感じた」 「!なんと……」 「夢に深く沈みかけたエレナ様の意識を引き上げる事は出来たが、今後も油断は出来まい」 穏やかな眠りに入っていた少女の顔が苦痛に歪んだ瞬間、確かに眠りを司る者の気配を感じ、ハクレイはすぐにその少女の意識を引き上げたのだ。 大事には至らなかったものの、アテナの膝元であるサンクチュアリで堂々と仕掛けて来た辺り、恐らく今回はただの挑発なのだろう。 舐められたモノだ、と忌ま忌ましそうに吐き捨てた。 「………我等が出会う時、聖域には良からぬ事が起こりますな」 「全くじゃ」 二百数十年を生きた老人達は深くため息をついた。 「セージ?何をしているの」 「あぁ、エレナ様。お戻りになられましたか」 体の震えが完全におさまり自分の足で部屋に戻ると、教皇が部屋の扉の裏や窓枠にアテナの護符を貼付けていた。 「どうしたの?……護符?」 「まあ、用心にこした事はございませぬからな」 「アテナ」と書かれた護符は部屋の四方八方に貼りつけられていたが、額縁で隠したり棚の裏の壁に貼っていたりするからおそらく日常生活ではそこまで気にならない………筈だ。 「エレナ様」 「はい?」 セージの手から部屋に貼られた護符と同じモノを渡され、じっくりと見つめる。 「エレナ様自身もお持ち下さい」 「?ええ……分かったわ」 よく分からないが聞いておいた方が良いだろう、と護符を服の袖にしのばせた。 「では、私はこれで」 教皇と入れ違いに女官が入ってきて、「ちょっと手伝って貰いたいのだけど良いかしら?」と頼まれ、笑顔で応じた。 [*前] | [次#] 戻る |