-春乙女-03 

「、よっと」


黄金の若獅子レグルスは、タッと黄金の鎧を着ているとは思わない程軽い足取りで遺跡を飛び移って聖域の中を進んでいく。

ふと、小宇宙を頼りに探していた人物を見つけ遺跡の下へ降り立った。




「獅子座(レオ)か」
「……エレナの修業終わったのか?」
「あぁ」


ハクレイの傍らでスヤスヤと眠っている少女を見つけ、小さく息をついた。



「今はそっとしておくが良い」
「……分かってる」


遺跡の柱に寄りかかって眠っている少女に近付き、傍から見下ろしたその寝顔は麗しく、思わず生唾を飲んだ。



「……っ」

思わずその頬に触れそうになるが、グッとその拳を握りしめる。



「……風邪、引くぞ」


クロスに付けていたマントを外し、眠っているエレナにかけてそっと包む。
ハクレイは両腕を袖に入れ、レグルスの背中に視線を落とした。



「エレナ様のお目付け役に任命されたのはお前か」
「……うん」


先程その任を教皇より命じられ、真っ先にエレナの元に降りてきたのだ。
まだ黄金聖闘士になったばかり故、一人で討伐の任務などはまだ任されない。


本来ならば、経験豊富で実力のある年長の黄金聖闘士が女神の目付け役になるのが良いだろうが、先日のスペクターを退治してエレナを守ったという手柄を買われ、レグルスがその任についたのだ。

それにレグルスはエレナと親しい、まさに適任だろう。




「……気持ち的には、複雑なんだけどな」
「?」
「なんでもない」

マントに巻き込んだ金の髪を引き出すと、するりと指からすり抜けていった。



























「………………」



エレナが目を開くと、そこには真っ暗な空間が広がっていた。

周囲は何もなく、あてもなく足を踏み出した時、足元がピチャッと音を立てて波紋が広がった。



「………水?」


裸足なのか、冷たさがヒヤリと足元へ上がってきて震える。



「……此処は……?」


パシャパシャと音を立てて歩く中、ふと気付けば視線の先に人が背を向けてうずくまっているのが見えた。


暗くても分かる、黒い髪の毛と黒い衣をした男性。




(…………アローン?いや、違う……?)



一瞬、その後ろ姿が愛しい少年と重なって戸惑いつつ、「あの……」と声をかけた。


伸ばした手が肩に触れ、男性が振り返りかけた瞬間、




「!、っ」


ザァッと風に巻き上げられて赤い華が視界を埋めつくし、華が散った後には、周囲には多くのセイント達の死骸が転がっていた。




「……あ……、あ…っ」



腰が抜けてその場に尻餅をつくと、バシャッと水が衣に跳ねて汚れた。


白い衣が黒ずみ、ふと両手を見た時悲鳴を上げた。



……水と思っていたソレは、全て血だったのだ。


黒光りしてヌルリとしたおぞましい感触は吐き気を催した。




「……フ、ハハッ」

バッと、正面にいた男性を見上げると、いつの間にか青年になっており、前髪で顔が見えない青年はその中央で血の涙を流しながら狂ったように笑っていた。



「や、めて……」


黒い剣を、聖闘士達の死体に振り下ろしては楽しそうに笑う。


心臓が、痛い。



「やめて……っ」



涙が頬を滑り落ちた。
やめなさい!!!と叫んだとき、ザァッと意識が遠退き、




「………また私の邪魔をするか、アテナ」


どこかで聞いた冷たい声が脳裏に響いた。




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