異端皇子と花嫁 | ナノ
惰眠 


「紅覇様まだかなー……」


暇な天音は、ぶーちゃんを連れて部屋から出てくると屋敷の縁側に腰掛けながら日向ぼっこをしていた。

今日、紅覇様は半日程で屋敷に戻られてゆっくりされるらしい。


いつ戻られるかは分からないが、屋敷の縁側は塀に阻まれていて外からはだらしない様子は見えないし、此処なら紅覇様のお戻りをいち早く知ることができる。



(……ぽかぽかして、きもちい……)


花の良い香りや、日向の匂いで完全に気が抜けた状態でぶーちゃんを撫でる。
くぁ…と大きな欠伸をして目を閉ざしたぶーちゃんにつられて欠伸を手で覆った。


(紅覇様がきたら、お茶とお菓子をお出しして……お話しして……)


ああ、天気が良いから庭園を散歩しながらお話しするのも良いかも。

それか、外にお茶とお菓子をお持ちしてピクニックみたいにするのもいいかもしれない。


……さすがに、皇子様が外でピクニックはダメね。


「あっ、そう言えば紅玉姉様から教えていただいた事や、神官様の言っていた西国のお話とか………たくさん、紅覇様とお話し……」

船をこいでいる頭でぼんやり考える。

ふあ…と再び小さな欠伸を漏らすと、完全に目が閉じられてあっという間に意識が遠くへと流されていった。











「………あ?」

少しひやっとする空気が頬に触れ、ゆるゆると瞼を開けると見慣れた薄紅色の髪の毛や綺麗な鎖骨が見えてうっとりとしながら胸元に擦り寄りかけた瞬間、ハッとして飛び起きた。


「わ、わたしいつの間に眠って…っ!って、寒!」

真上にあった太陽はいつの間にか真っ赤に染まりながら地平線の方へと消えて行こうとする途中だった。
道理で寒いわけだ。
首元までかけてあった掛け物の中に再びもぞもぞっと収まると、「う〜ん、うるさい〜」と眉を寄せた紅覇様。

「おはよぉ」なんてのんびり言いながら、寝ぼけている紅覇様に抱き枕のように抱き寄せられてしまい恥ずかしいやら驚きやらで目を白黒してしまった。


「いつ戻られたのですか?」
「ん?昼餉の前かなぁ〜?」
「では、私が意識を失って割とすぐ……」
「そうなの?『風邪ひくよ〜?』って言っても天音全然起きないんだもん〜。抱っこして連れて行こうとしたら、変な格好で抱き付かれて動くに動けなくなっちゃってぇ。そしたら、そのまんま一緒に寝ちゃおうかなって」


だから、部下たちに薄い掛け物とか持って来て貰っちゃった。と悪戯っぽく笑う紅覇様を前にブルブルと肩を震わせる。


「そんな……、紅覇様とこんな所で眠りこけてしまうだなんて……っ!」
「大丈夫大丈夫〜。僕こんな事じゃ風邪引かないしぃ〜」
「そ、そうではなくって!いえ、それも勿論なのですが………私、紅覇様とたくさん、たくさんお話したい事があって……っ」


お茶やお菓子をいただいて、散歩をして……。

それに、もっともっと紅覇様とお話したかった。


ずっと楽しみにしていたのに!


「別に今日がだめでも、夜にでも夕餉のときでも話せばいいじゃない。
散歩だって、埋め合わせしてあげられるしぃ〜〜」

「ですが…っ!最近忙しくて日中に二人の時間を頂けるだなんて、そうそう無」

「僕らにはまだまだたくさん時間があるんだから、焦んなくていいんだよ。それに僕も昼寝の気分だったしね」


ね?と可愛らしく首を傾げて言いつつ私を気遣ってくださる紅覇様に、ついつい涙腺が緩みそうになる。
だが、昨日の夜から楽しみにし過ぎてあまり眠れなかった程なのだ。


それに、いつも私よりも眠るのが遅くて寝顔が見れない紅覇様の寝顔を見れていない。

……寝顔……。

そう言えば、明るい所で紅覇様の眠っている際のご尊顔を拝謁したことはない。



「………紅覇様。あの、囁やかなお願いなのですが」

「うん?」

「折角紅覇様とお昼寝出来たのに眠りこけていて全く覚えていないので、また今度改めて紅覇さまとお昼寝したいです」

「へ?」

驚いて目を見開いた後、可笑しそうに笑った紅覇は「堂々とし過ぎ」と嫁に軽くデコピンを食らわせた。





「………あらあら」

後日、縁側でお茶とお菓子を食べたあとに、夫に腕枕されながら穏やかに惰眠を貪る夫婦の姿を見た従者達は嬉しそうに頬を染めて遠くからそっと見守った。



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