甘い誘惑(吸血鬼パロ) ※チョコレート・ヴァンパイアのパロ 「あまね、じゃあ噛んでいい?」 「、はい…っ」 私の家は名家な上に、血族内での婚姻を繰り返してはその血の品質を守ってきた。 その為、近年は私のお父様のように虚弱体質者が出てしまい、その対策として外部の血筋を入れるように変わってきた。 小さい集落で過ごすのでは無く、都市に出るようにもなり、学園にもちゃんと通わせて貰えるようにもなってきたのだけれど…。 私は、あまり屋敷の外に出して貰える事は無かった。 なんでも、吸血鬼にとって、私の血は格別に美味しいらしい。 少し出血して、その匂いを嗅ぐと耐性のない吸血鬼は理性を失って襲いかかろうとしてくる。 擦りむいたり、月のモノがある時なんて屋敷の部屋から出して貰えなくなってしまう。 そんな私の将来を案じたお兄様が、「信頼出来る吸血鬼と契約しよう」と持ちかけてきた。 ”紅血の契約(アーティクル・ブラッド)” 吸血鬼の血の一部と、人間の血の一部を交換し合うことで、吸血鬼はその人間の血しか飲めなくなる。 そして、契約した人間は他の吸血鬼に血を吸われることはない。 契約したことにより、体内にある吸血鬼の血が他の吸血鬼にとって毒になるから。 おまけに、甘い血の香りもしなくなるため、普通の人間と同じように振る舞うことが出来る。 お兄様の学友に力の強い吸血鬼がいるから、その方と縁のある吸血鬼を紹介してもらった。 それが、吸血鬼の名家である練家の子息の紅覇様だった。 お兄様の手引きで出会った私達は、すぐに契約を交わした。 おかげで、私は他の吸血鬼に感知されなくなり、屋敷の外で暮らす事が出来るようになった。 ………でも、最近はその事を少しだけ後悔している。 学校の昇降口は彼等の帰宅を見送る生徒達が溢れており、それを遠巻きに見つめる。 黄色い歓声の中を悠々と歩いてきている紅覇様とそのご友人の姿を認め、心の中で小さくため息を漏らした。 「アリババ様!今度血飲んでいただけませんか?」 「わたしが先よ!あたしの血を飲んでください!」 「いいね〜!みんな纏めて俺のお妃様にしちゃうゾ!」 「白龍様〜!」 「すみません、私は輸血派なので」 「紅覇様、わたくしの血も飲んでくださいっ」 「あ〜、僕もう契約しちゃってるんだよねぇ〜。ごめんね?」 手をヒラヒラさせて断わり、周囲の人間を軽くいなした紅覇様と目が合う。 目が合った瞬間、「あ!」と嬉しそうな声を上げてズンズンと此方に近づいてきた紅覇様にギュウッと抱きしめられる。 その瞬間、周囲の女性から一斉に敵意に満ちた視線を向けられ、いたたまれなくなる。 「ちょうど良かった。天音、帰ろう〜? じゃあね、アリババ〜」 「おう、また明日。天音もじゃあな」 「はい。失礼します」 昇降口前のロータリーで待機していた黒塗りのリムジンに紅覇様と乗り込むと、そんな私達を見た白龍さんはリムジンから遠ざかるように正門の方に歩いていく。 遠ざかっていく白龍さんに対し、窓を開けてニヤニヤしながら声をかける紅覇様。 「白龍〜〜、今日も乗って行かないの?」 「本屋に寄ってから帰ります……血生臭い空気は苦手なので」 「あっそ、じゃあ先に帰ってるよ。出して」 立ち止まった白龍さんの隣を通り過ごしていき、小さくなっていく人影を後部座席から見つめていると、隣に座っていた紅覇様に肩を押されて車のシートに押し倒される。 「や…っ、何」 「ねぇ、僕喉渇いちゃった。天音の血、飲んで良い?」 「っん。せ、めて…屋敷についてから」 「ヤ〜ダ、そんなに待てないしィ〜」 「もう…!だから、輸血派の白龍さんが嫌がって同乗してくれなくなったんですよ…!?」 「良いじゃん、あいつ邪魔なんだもん。お前は僕のなんだから、大人しく血を吸われていればいいんだよ」 ブレザーのリボンとブラウスに手をかけ、首筋を露わにされる。 白い首筋を舌に舐めあげられる感触に、体がゾクゾクとした。 「っ!あ…っ」 ブツッと牙が肌を突き破ってずぶずぶと埋まっていく感覚に、唇を噛みしめる。 一日に何度も噛まれている筈なのに未だに慣れないのは、私も白龍さんのように吸血行為が苦手だからなのかもしれない。 昔、上の二人の兄弟を吸血鬼に目の前で惨殺されて亡くしている白龍さんは、吸血鬼だけれど血が苦手で、輸血に頼って生活している。 彼も練家の男児だし、私と同い年だったけれど……そういう事が理由で紅覇様が私の契約相手として選ばれた。 まあ……理由はそれだけではなくて、紅覇様は吸血行為が大好きで、自分の屋敷に居たメイドや執事達など片っ端から吸血してはお気に入りの使用人といかがわしい行為もしていたというから……その抑止力として私と契約させられたという裏事情もある。 美食家というか…雑食だった紅覇様が私の血を舐めてすぐ気に入り、契約を承諾してくれたから今こうして無事に学校生活を送ることが出来る。 もし、紅覇様の庇護を失ってしまえば、私のように弱い人間はあっという間に食い尽くされて死んでしまう。 「ねぇ、天音さ……」 「?は、い…?」 「具合悪いんじゃない?最近天気も崩れやすくなってるしさ〜、体調悪いんなら早く言ってよね」 ペロッと牙を立てた処の血を舐め取られると、そこはすぐに痛みが無くなった。 体内に巡っている紅覇様の血により、異常な回復力を手にした。 勿論、だからといって噛まれる痛みが無くならないわけがない。 それでもこうして契約を続けているのは………。 「お前は大事な僕の餌なんだから、いつも万全な状態じゃないとダメじゃん! ほら、眠らせてあげるから屋敷に着くまで寝てな。 無理するんじゃないよ!」 「…は、い」 頭を紅覇様の膝に置かれ、頭を撫でられると首に契約を顕す印が浮かび上がり、一瞬だけ印が疼く。 すると、突如眠気に襲われた。 ヴァンプは人間と契約すると、その契約者の体を好きに操る事が出来る。 こうして強制的に眠らせる事だけでなく、好きに四肢を操ることも出来るのに、紅覇様にそこまではされた事はない。 体調が悪いときは吸血することもないし、逆に血を与えてくれる事まである。 「餌だ」と公言しているわりには、ちゃんと私の事も気に掛けてくれていることが分かるから、今もこうして契約続けることが出来るのだろう。 (……いつまで、こうしてて良いんだろ……) とろとろとした微睡みの中で、ぼやけた視界の先の紅覇様を見上げる。 血の色をした唇だけはっきりと見える中、赤色がその輪郭を吊り上げてゆっくりと近づく。 そして吐息が唇にかかった瞬間、猛烈な眠気に意識が引っ張られて記憶が途切れた。 20190715 執筆 戻る ×
|