異端皇子と花嫁 | ナノ
食客 08 


「おやおや、随分と着飾ったねぇ。似合うじゃないか」
「お姉ちゃん綺麗〜」


何処も人で溢れかえっており、特に王宮前の広場は祭りを楽しんでいる人達で賑わいを見せている。恥ずかしさからお面で顔を覆い、周囲の人に花輪を手渡しで配って回りながら、国営商館の方に居る筈の女将さん達を探していると、王宮広場で偶然出会う事が出来た。

初めは首を傾げられたものの、お面を取って見せると「おおお!!」と他の隊員も声を上げて驚いていた。


「あまねちゃん、すっかり美人になって…」
「おいコラ。元々素材は良い方だっただろうが」

「この馬鹿共。女の褒め方を間違えるんじゃ無いよ」


容赦なく女将に拳を落とされて悶絶する隊員を前に、ついつい苦笑する。


「お前、派手な化粧も合うんだねぇ。見違えるようだよ」
「女将さんから貰った紅のおかげですよ」
「そうかい。…にしてもシンドリアでも珍しい祭りに立ち会えるなんてラッキーだね。
おまけに今夜は無礼講らしい。お前達、存分に楽しんできな」
「よっしゃーー!!」

まるで子供のようにガッツポーズをしながら酒場へ繰り出す男衆を「まったく…」と呆れるように言いつつも、穏やかな眼差しで見送る女将。
隊商の女性達にも「上手い食い物と良い男を堪能してきな」と不敵な笑みで伝え、送り出していく。


「あまね、お前シン達の所に戻るかい?」
「そのつもりです。女将さんも来ますか?」
「いや、今はいい。取り敢えず、アシルと適当に回って、美味いモノ食ってからにするさ。『後で顔出しに行く』とだけ、伝えておくれ。今までの礼に、酒の一杯くらい付き合ってやらんとね。それと……あまね」
「はい?」
「酔っ払いにはあんまり付き合ってやるんじゃないよ。あと、変な男に掴まらないように」
「ふふ、わかりました。また後で!」


忘れないうちに、と女将とアシルの首にも花輪を掛けてから、来た道を引き返す。

王宮広場を抜けて王宮に続く階段を上がりきる頃には籠の中に在った花輪は全て無くなった。ふと一息をつくと、美味しそうな匂いにつられてお腹が情けない声を出す。

花の入っていた籠をどうしようか、と迷っていると近くに通った女官が笑顔で回収していく。
何もやることが無くなると、余計に食欲が顔を出してきて辛い。


「何か、食べるもの……」

後ろを振り返ってみると、眼下には人の熱気で白く煙っている広場。近くに居た時にはさほど気にならなかったけれど、少し離れてみると物凄い人の数だ。
この中にもう一度行かなければいけないかと思うと、流石に気が引ける。

だんだん夜になるにつれて更に人の熱気も増してきたのもあり、酒の入っている人も増えた。

「うーん」と迷っていると、「あまねちゃん!!」と聞き慣れた声を聞きつけ、無意識にその声のする方へと顔を向ける。


「あまねちゃん!こっちこっち!」
「っヤムライハさん!」

広場を一望出来る城壁の端にテーブルとイスが置かれ、そこにヤムライハさん含めた数名が食事をしている様だった。

ヤムライハさんの隣には、金色の髪をしたあの「ピスティ」と呼ばれていた少女が座っていて、その斜め前には赤い髪。銀色の髪をした人も居る。
あの体格は間違いなくマスルールさんだろう。

顔見知りとを発見してホッとしたのもつかの間、知らない人が混ざっている事にやや気後れしつつも、そちらへと足を向ける。


「こっちこっち!隣座って!」
「お邪魔して大丈夫ですか?」
「あー!前に港で会った子だ〜。いいよー、いらっしゃい!」

ニコニコした二人に挟まれるようにイスに座らされ、「さあさあ食べて!!」と食事が盛られた皿をドンっと目の前に置かれる。


「可愛い〜。あまねたんって呼んでいい〜?」
「え、はい。どうぞ」
「やったぁ〜」
「なあ、おい。取りあえず、お互い紹介するのが先じゃねぇのか?」

向こう側に座っていた褐色の肌をした銀色の髪の男性が不服そうな声でそう言い、「確かにそうね。ふふん、良いわよ!」とご機嫌なヤムライハさんが立ち上がる。


「この子はあまねちゃん!この前、私が「天才」って言った子よ!物凄く優秀な魔導士なんだから!殆どの方面の魔法に詳しいのだけれど、特に凄いのは魔法式の解析と演算能力の高さかしら!元々保有してるマゴイが多い事も相まって、一度にかなり長文の魔法式を組むことが出来る上に、光属性の魔法と他属性との活用が目を見張るものがあるのよ!この前私が研究していた通信・伝音において、音魔法と風魔法ではなく力魔法と光魔法を活用することによって」


「俺はシャルルカンってんだ。よろしくな」
「あまねと申します。シャルルカンさん」
「シャルって呼んであげてね〜〜。ちなみに、私はピスティって言うの。よろしくねぇ〜」
「よろしくお願いします」


唾を飛ばしながら熱弁していたヤムライハさんが「ちょっと!!聞いてる!!?」とシャルさんの方を向いて声を荒げる。

「わりぃ。途中で何言ってるかわかんなかったから、聞いてねぇ」
「ハァア!!?何ですって!!??そっちが言うから話してあげてたのに、聞いて無いってどういう事よ!頭おかしいんじゃないの」
「魔法の事話せなんか言ってねぇだろうが!頭おかしいのはてめぇだ、この魔法馬鹿」
「剣術馬鹿に言われたくないわよバーカ!!」
「んだとこのクソ女!!」

テーブル越しにお互いの顔や髪を掴み合い、「バーカ!!」「そういう方がバカだろ!バーカ」と罵りながら取っ組み合いの喧嘩が始まる。

普段人が喧嘩している場面、特に取っ組み合いの喧嘩なんて始めてみる。そのせいでどう対処したら良いか解らず、一人でオロオロする。

テーブルの端に移動しつつギャーギャー言いながら喧嘩し続ける二人の方を向いていると、「あの二人はいつもああだから〜」とピスティさんがヘラヘラした声でのんびりと応える。


「その内飽きたら収まるから、気にしなくていいよ〜。ジャーファルさん辺りが通ったら、自然と静かになるし!」
「本当に大丈夫ですか!?殴り合いになってますけれど…」
「大丈夫だよ〜。ね、マスルール〜」
「そうッスね」

魚を一匹丸ごと口に放り込み、口の端から魚の骨を覗かせながら頷くマスルールさん。
何事も無かったかのように食事を再開し始めた二人に倣って食事を頂く。

皿の上にドンっと盛られた魚の丸焼きなどを食べながら談笑していると、ピスティさんが言ったとおり、その内お盆と水差しを持って歩いていたジャーファルさんが偶然通りかかった。そしてシャルさんの頭に手刀を落として悶絶させ、二人に少し説教をすると静かになった。

「全く、二人ともいい歳なのに〜〜」や「女性の顔に〜〜」とか言いながら、キツイ声で叱責したジャーファルさん。
説教が終わると、トボトボと戻って来た二人と一緒に、ジャーファルさんも此方に気づいて笑顔でやってくる。



「あまね、楽しめていますか?」
「はい。どの料理も、とても美味しいです!」
「良かった。そう言えば、後でシンがまた少し話したいって言ってましたよ。
あの後、話も途中で終わってしまいましたからね。案内しましょうか?」
「あ、でも…」
「行っておいで〜。待たせちゃ悪いもん」
「そうよ、お待たせする訳にはいかないわ」


ニコニコしながら「行ってらっしゃい〜」と送り出してくれる皆に頭を下げ、ジャーファルさんの後ろをついて歩く。

王宮の中を進んで歩き、階段を上がると島を一望できるテラスへと案内される。
そこには、予想外の光景が繰り広げられていた。




「うふふ、次はあたくしよ〜」
「いいえ、わたくしをお膝に乗せてくださいませ」
「シン様ぁ〜〜」


とても豊満で美しい女性達が、まるで花に群がるようにシンの周りを取り囲んでいた。
今までシンは実の兄に結構似ていると思って居たけれど、もう似ているなんて云えない。

あんなに軟派な人、兄とは似ていない。


(お兄様は確かにモテてたけれど、必要以上に女性を近づけることはしなかったし、浮いた話も全然……)


その原因の一端は私にあるかもしれないけれど……その光景を眺めながら出たのは「うわー」という白けた声だった。



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