異端皇子と花嫁 | ナノ
第八夜 3.5 


「やっぱり、放すんじゃなかった……っ」

ギリッと歯を噛み締めて後悔を口にしながら、不安そうな部下達と向き合う。


「本国と連絡が取れたらすぐに僕に取り次いで。
それまで取りあえず僕の部隊は天音の捜索を続行して。
紅玉は、一度本国に戻りな」
「いえ、わたくしも天音ちゃんの捜索に助力しますわ!こんな状態で帰るだなんて、出来ません」
「お前、迷宮を攻略したばかりでしょ。取りあえず、金属器を持ち帰らないとね。
兄上達にも、報告ちゃんとしてないんじゃないの?」
「……でも!」
「聞こえなーい。ぐずぐず泣かれても邪魔だから、さっさと帰んなよ。
そんな寝不足な顔で居られたら、辛気臭いのが映るじゃん〜」

涙で真っ赤になっている紅玉の目の前に立つと、血が出てない方の手でそっと紅玉の頬の涙を拭う。

「お前も疲れたでしょ?一旦帰って、明兄達や居残ってる部下達を安心させて来な」
「お兄、様…」
「大丈夫だよ。天音って危なっかしいけれど、何だかんだ図太いんだから」

絶対に、連れて帰って来るからね。


そう笑うと、「そうですね」とつられたように下手くそな笑顔を見せた。

「では、私は絨毯で戻りますわね。
連れ帰る部下は、夏黄文くらいでいいです。
後は、お兄様の指示を受けるように言って置きますわね」
「いいの?」
「はい。探すのは、人数が多い方が良いですもの!」

では、行きますわね。と従者を連れて去っていく紅玉。
その背中がピンと張っていて、堂々としている事になんだか胸がくすぐったい。


「あーあ。こうやって皆親離れしていくんだねぇ〜」
「紅覇様?」
「何でもない。取りあえず、出せる船は全て出しちゃって。迷宮の跡地を中心に少しずつ範囲を広げて捜索して。
この後来る港を開拓する部隊にも指示を出さなくちゃいけないから、鳴鳳は捜索隊の指揮を取ってよ」
「……私で、良いのですか?」
「お前だから頼んでんの。よろしくね」

後ろから感無量といったような雰囲気で「畏まりました!!」と叫んでる鳴鳳をほったらかしにしてぼんやりと沖の方を眺める。

迷宮に入っても、一緒のタイミングでスタート出来ない事がある。
それに、迷宮を攻略した後も、転送先が一緒とは限らないし、同じ時刻に戻って来れるとは限らない。
そう、分かっていた筈なのに、あの子を離したのは僕だ。

全部、僕のせい。


「………無事だと、良いけど」


はあ、とため息を漏らして目を閉じると、ズルッと帽子がずれる感じがした。


「ん、なに?」

帽子を両手でズリあげながら触ると、モフッとした感触がしてギョッとして頭を振る。
途端にバサバサっと音がすると同時に空に舞い上がる小さな影。

「ハト!?」
「くるっぽー」

普通のハトよりは小柄で、でも間違いなくハトの姿をしてる。
港からそれなりに離れた場所なのに、何故ウミネコじゃなくてハトがこんなところにいるのだろうか。


おまけに、

「何なに!?ちょっと何なの!?止まろうとしないでくれる!?」
「くるっぽー」
「ちょっとぉおお!ぶった切っるよ!!?」

僕は帽子にフンなんか落とされちゃ堪らないと回避しようにも、執拗に僕の頭を目がけて飛んでくるハト。
逃げようにもビックリするくらいしつこく追って来るソレ。

部下達にも「え!?ハト!?」とビックリされる始末。

「もぉおおお!!うっざい!!!」

ずんっと頭の上に止まった奴を両手でむんずと捕まえ、網カゴの中にでも放り込んでやろうかと歩いていく最中。


「わっ!?」

バラッとハトの体の輪郭が崩れて紙屑のようにバラバラと宙を舞った。

「紙…?」

千切れている一枚を取って呟くと、その一枚に向けて他の紙屑が集まって来て繋がっていき、やがて一枚の紙へと変わった。
こんなの、魔法以外なんでもない。

「………」

ついつい呆れたようなため息を漏らし、手元に残った紙にサッと目を通すと更に深いため息が漏れた。


「もう全く……ほんっとに面倒くさい子」

そう言いながらも、ついつい笑みが零れてしまう。

紙をヒラつかせながら踵を返すと、意気揚々と部下に指示を出して「必ず見つけるんだ!」と言っている鳴鳳の背中にその紙をバシッと叩き付ける。


「いっっ…!紅覇様!?」
「天音、見つかったよ」
「それはようございま……ええ!?」
「だから、捜索部隊は解散ね。はいはい、撤収〜」


手を叩いて部下たちにそう呼びかけると、不安そうな部下達が続々と集まって来る。

「紅覇様!正妃様はどちらに…」
「此処からかなーり離れた村に転送されちゃったみたい〜。絨毯で飛び続けないと着くのに時間かかりそうな感じ〜」
「そんな遠くに…。どうしてでしょうか…」
「そんなの僕にも分からないしぃ〜。
僕は奥さんを迎えに行って来るからお前達は港で待機ね。
鳴鳳、今度は僕の代わりに部隊に指示よろしく。あ、絨毯飛ばさないといけないから、純々、麗々、仁々達は僕に付いて来て」
「「「はい!」」」


嬉しそうにバタバタと走り回る部下達を見守りつつ、船の縁に肘をついて港を見つめた。


「とりあえず、あのハトのお返ししてやらないとねぇ」

ふふっと笑いながら乱れた髪を整えた時、ずっと遠くに居る筈の天音はブルッと寒気に体を震わせた。



20160927 執筆
20161103 加筆
20170625 公開




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