お手入れ 「あのさ、色々遊んでて今更なんだけどぉ」 「はい」 「こうも髪の毛長いと大変でしょ〜〜?切りたいとか、思わないの?」 私の藤色の髪を慣れた手つきで手早く整えていく紅覇様。 とてもいい香油で撫で付けられた髪は、毛先に至るまで艶々している。 昔から侍女たちが「どんな美人でも、髪が汚くては美しさ半減です!」「髪は女の命!」「顔の印象の七割を占めますから!」と言い張るのこともあり、結構気を遣ってくれていた。 煌に来てからは、その役割を紅覇様が率先してやってくださっているから、正直昔とあまり変わりない。 「う〜ん……そうなんですよね…」 「でもさ、切っちゃうのも勿体ないよねぇ。綺麗だもん。 藤色の髪なんて、この国でもそうそう見ないよ。てか、他の国でもあんまり居ないかも」 「私の国でも、紫色の髪は皇族に連なる者の証明になります。髪を晒して歩くだけでも、国民の目を引きます。だから安全上の意味でも、あまり自由に外を出歩けませんでした」 「大変なんだね…。確かに僕もこんな髪色してるから、結構人目引くかも。練家以外では、ファナリスしか見ない、ってか耳にしないね」 ファナリス。 暗黒大陸の覇者、最強の戦闘民族。 昔は暗黒大陸にそれなりの人数が居たと聞くけど、今は奴隷狩りのせいでもう全然居ないと聞く。 戦闘民族なんて、一体どんな民族なのだろう…。 (生まれた時から筋肉がモリモリとか、戦闘狂だらけとか…?) 戦闘狂……。 チラリと、私の後ろで髪の毛を纏めていた紅覇様を盗み見ると、「なぁに?」と小首を傾げられた。 こんなに中性的で愛らしい紅覇様だけれど、戦闘となれば悪鬼の如く大剣を振り回して血を浴びている。 人は、案外見かけによらない。 「…紅覇様の薄紅色の髪も、綺麗だと思いまして。伸ばさないのですか?」 「ええ〜?そう?ありがと〜。 でもどうせなら、僕も炎兄みたく真っ赤で綺麗な髪だったら良かったのにな〜って思うよ。あと、戦闘中は結構邪魔だから今くらいの髪型がちょうどいいかも。お前は?切らないの?」 「切りません」 「なんでぇ〜?」 「だって……切っちゃったら、紅覇様にお手入れして頂けません……も、の」 照れが入って、尻すぼみになりながら言葉を吐いて俯く。 しばらくしても紅覇様が何も言わないのを不審に思って振り返ると、そこには額に手を当てて深くため息をつく姿があった。 「…紅覇様?」 「ほんと、大胆と言うか……お前は平然とそんなこと言うよね。 いいよ、僕が綺麗にしてやるから」 「ふふ、ありがとうございます」 20150121 執筆 20181122 公開 戻る ×
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