異端皇子と花嫁 | ナノ
押し倒してみた 


「あ、あの…紅覇様………?」
「んー、なあに?」
「起き、上がれないのですが…?」
「うん知ってるー。ちょっと試しに頑張って抵抗して見せてよ。
はい、やってみて」
「ええー……」


二人で寝てる寝台に両手首を掴んで押し付け、両足は僕の足でガッチリと抑えこんでみる。
その状態でこの子がどれだけ抵抗できるのか、ちょっと興味本意で試すことにした。


僕たちは、そんな関係にはなってない。

でも、もしいつかそういうことになった時用にこの子がどれくらい抵抗出来るのか知っておいても良いだろう。

まあ、一応この子僕の奥さんだし、いつかは絶対抱かなきゃいけない。
そのときに変に抵抗されても困るし、多少はこういう状況下にも慣れて貰わないと。


「?ほら、良いよ?」
「っ…やって、ます」
「え……ッはあ!?」
「これが、精一杯、です!」


うんうん、と小さく唸っているが、僕の手足には抵抗らしい抵抗が伝わってこない。

何、この子ふざけてるのかな…。いや、僕も充分ふざけてるんだけど。


(もしかして、可愛い子アピールでもしてる?)
そんなことしなくても充分に可愛いけれど、今になって可愛い子アピールされてもね……。


そんなことを考えていると、目の前に横たわってる天音が無言になっていくのを感じて首をかしげて見下ろす。

改めてみると、この子の表情は真剣そのものだった。
そして、だんだん息も上がってきて顔もほんのりと赤みが増してくる。
そういえば、足先の方はさっきからずっと忙しなくバタバタしてる。


それを見て、やっと本気なのだと気付くと同時にあまりの力の無さに愕然としてポカンと口が開く。


(………こいつ、弱すぎィ……!!)


頑張って抵抗してる証拠に、まるで全速力で走った後のように息もゼハゼハし始めた為パッと手を離してあげた。


魔導士の体は普通の人間より脆弱な為に、ボルグを張って防衛するというけれど、ここまで脆弱なのは一体……。


(マゴイの量は物凄く多いらしいし、その反動なのかなぁ……)


大量の魔法を使いこなす体力はあるけど、体全体の筋力や強度がそれに追い付いてない。
だから巨大な魔法を使う度に、真っ先に魔法の反動を受ける脆い腕には裂傷が出来てしまう。


……多分あまりにも、魔法に特化しすぎてるんだろう。



(あ、だからあんな小振りな杖を振ってるんだ……)

こんな細くて筋肉のない腕で、『組織』の連中が使っているような身の丈程の大きな杖を振り回すのを想像できない。
それに、なんだかんだジュダル君も腹筋以外は普通だからか、短い杖を使っている。


チラリと目を閉じながら息を整えている天音を見下ろすと、小さくて細い手首には僕が押さえ付けた痕がくっきりと赤く残っていた。

全力の抵抗をしてアレだなんて……男に喰べてくださいって言ってるようなものだ。



(コレから、魔法を取り上げたら本当に普通の人間以下じゃないの……)


「はあ〜……」
「っ、なんですか!」
「何でもないよ。気のせいだって〜」
「小馬鹿にされた気分です!!!」
「あー、うん。気のせいだってば〜〜。よしよし、天音は可愛いねぇ〜〜」


よしよし、と形の良い頭を撫でながらサラサラの髪の毛の感触を楽しむ。

不服そうに小さく膨れた頬っぺたに指を押し付けてプスンッと空気を抜くと、その吸い付くようなモチモチな肌の感触も楽しくなってきてムニムニと摘まんで遊ぶ。


「あしょばないでくらはい(遊ばないでください)」
「ええ〜〜?」
「頬っぺたが伸びたら困ります」


そういうと伸ばしたくなるじゃない?

むにーっと頬っぺたを下に伸ばすと、すごく嫌そうな顔をした天音の顔がブサイクで、でもやっぱりなんか可愛くて思わず噴き出す。


「ブサかわ〜〜」
「やだもう!ほんとにやめてくださいっっ!」
「えーやだぁー」
「紅覇様!!」

これでもやっぱり抵抗してるらしい。
僕の腕を掴んで引き剥がそうとしてるが、全くびくともしない。

かなーり腕の力を緩めてやって、やっと僕の腕を引き剥がした天音が今度は僕の頬を引っ張ろうと腕を伸ばしてくる。


片方の頬を触るのを許す代わりに僕も天音の頬をムニムニと弄ると、楽しそうな笑みをする天音につられてついつい笑みが込み上げた。




端から見ても仲良し夫婦の楽しそうなじゃれあいを盗み見ていた従者達は、口元を押さえながら「ん"ん、天国…」と呟きながら密かに咽び泣いていた。



2014 執筆
20160504 加筆公開


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