開いた傷口
![](//img.mobilerz.net/sozai/927_w.gif)
赤い赤い世界が見える。
真っ赤に染まって流れる血が。
私の手足からも、腹部からも。
その全てから血が溢れ、止まらない。
口の中は鉄の味が広がり、鼻孔をくすぐるのは血の異臭。
視界が赤い。
目が霞む。
開いた傷口は塞がらない。
それは血を溢れさせる傷口でもなければ口から溢れる傷口でもなくて。
私は虚ろな瞳で前を見つめる。
「早く、死んでしまえばいいのに」
そうすれば楽になるよ。
そう彼は残酷にも嗤う。
その手に持った銀の凶器を持って。
その真っ赤に染まる真紅の狂気を持って。
「どうし、て・・・・」
私は血を流しながら呟く。
ごぽり、と血の塊が咽から這い上がって、それは私を更に赤く染める。
すると彼は世にも楽しそうに笑って。
「君が大好きだからだよ」
そう残酷にも謳った。
私はそれに絶望を見る。
言葉は愛を告げたのに、瞳は何処までも冷めていて。
そしてその瞳には、真っ赤な憎悪が潜んでいた。
私は愛しの人に愛されていなかった。
私は愛しの人に憎まれていた。
その絶望に、私の心は真紅に塗り潰される。
傷口からは血が絶えない。
どくどくと溢れ出る真紅は止まることを知らない。
私はそれに彼の瞳を重ねて、絶望の淵に沈んで行った。
開いた傷口は抉れ、
最早死へと至らしめることしか知らない
2009,7,28