Orijinal | ナノ


希望なんて






「あの人ってどんな人がタイプなのかな?」

「あの人ってどんなことが好きなんだろう?」





瞳を輝かせてはしゃぐ君。
それを僕は沈鬱な気持ちで耳にする。





「もう、話聞いてる?」





話しかけられて、僕は小さく溜め息を吐いた。





「聞いてるよ」

「じゃあ仕事なんてしてないでちゃんとこっちを見て話を聞いてよ」





僕はそれに仕方なく振り向くと、じっと僕を見つめてむくれる君が視界に入る。
その表情は愛らしいことこの上ない。





「教師に仕事をさせない生徒なんて君くらいなものだよね」





そう言えば君は酷いと僕を軽く叩く。
いつもさぼっているくせに何言ってるのとそう笑って。





「ねぇ先生。先生ならあの人のこと、判るよね?」





君は小首を傾げる。
愛らしい瞳を輝かせて、期待の色を見せて。





「あの人のこと、教えて欲しいな」





そう君は僕に笑いかけた。





無邪気で無垢な、屈託のない笑顔。
それを愛しく感じるのに酷く憎らしくて。
無性に穢したい気持ちになる。

この薬品の匂いのする白い空間に、どす黒い毒を吐き出したい。
この感情を見せたら君は僕に振り向いてくれるだろうか?





「先生、どうしたの?」





さっきの表情とは一転、今度は心配そうに僕を覗き込む君。
その瞳には僕が映っているようで映っていない。

それに気付いて無性に哀しくなって、僕は口元に笑みを浮かべた。





君にこの気持ちを打ち明けたところで、この関係は破滅に向かうだけ。
決してそれは受け入れられない。
何故なら君の瞳には、僕はただの教師としてしか映らないのだから。










嗚呼なんて不条理な恋。
哀し過ぎて、哀れ過ぎて、涙も出やしない。
初めから終わっているなんて、なんて馬鹿らしい恋なのだろうか。










僕はそう自分に嗤って、彼女の髪を優しく撫でた。





「・・・先生?」





瞳が揺らぐ。
恐怖を映して。

僕はそれに嗤って、彼女を絶望へと誘った。




















希望すらも抱くことが
許されないなんて
んて愚かしい恋なんだろう
らば逸そ壊して破滅を迎えてしまった方が、
僕はきっと報われ



2009,7,26


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