Shed | ナノ



空は快晴。
気候は良好。
温度最適。
そんな休日の午後の公園に、その二人はいた。





午後の休日








公園の広大な草原の上、その沢山聳え立っている木々の中の一本。
そこに空目とあやめの二人はその木のもとに座り、穏やかなときを過ごしていた。
風はそよそよと頬を撫ぜ、陽光は木の葉の合間から零れ落ちる。
空目はそんな中で木の峰に背を預け、分厚い本を片手に読書に勤しみ、対してあやめはその空目の隣で腰を落ち着け、公園の広場で遊ぶ子供たちや道を通る人たちを楽しそうに見ていた。

そんな穏やかなときが暫く続いた頃、空目がふと本の文字を追っていた視線を外し、横にいるあやめへと振り向いた。
あやめは遠くで遊んでいる子供たちに視線を向け、楽しそうに微笑んでいる。
空目はそんなあやめを暫く見ていたが、突如何かを思い当たったのかその場からふと立ち上がり、あやめの前の方へと移動し始めた。
それに気づいたあやめは不思議そうな表情をして空目を見上げ、空目のその行動を疑問に思いながらも空目を見守った。

目の前に立った空目はあやめに背を向け、その場に座る。
突如座った空目は何をするのだろうと少々不思議に思い、あやめは小首を傾げた頃。
空目が突然その身体を後ろへと垂直に倒した。


「!?」


あやめはそのことに驚く。
何が起こったのかと理解する前に、あやめの膝の上に何かが乗った感覚がした。
それを目で追えば、空目の美しい顔が膝元にある。
あやめはそれに身を固めた。

そんな固まるあやめに構いもせず、空目はあやめの膝上に頭を乗せて寝転んだまま、再び読書に勤しみ始めた。
暫くあやめはそのまま固まっていたが、空目が変わらずに読書をしているのを見て、漸く停止していた思考が動き出す。
そして働き出した思考回路をフルに使い、今何故このような状況になっているのかを必死に考えた。
だが、どうしてもその答えが見つからない。
何故、空目が自分に膝枕をしてもらうようにして本を読んでいるのか。
そんな状況に陥るきっかけが理解できないのだ。


「あ、あの・・・・・・恭一・・・様・・・・・・?」

「何だ?」

「ぇ、いえ、その・・・・・・・行き成り、どうしたんですか?」


そう問いかければ本へと向けていた視線をあやめへと向け、空目があやめを見るためにその顔を上向ける。
綺麗な面立ちをしたその顔があやめを見上げ、その切れ長の眼があやめの瞳を見据える。
それに僅かにあやめは頬を染めながらも、空目の答えを静かに待った。


「ただ横になりたかっただけだ」


そう一言ぼそりと述べ、空目は瞳を閉じる。
それに少々きょとんとして、あやめは瞳を瞬いた。

空目が横になりたかったのは判った。
横になる際、枕が欲しかったのだろうと膝枕の件までは理解できる。
だが、どうして態々自分の前の方へと移動する必要があるのかが判らない。
ただ膝枕をするのならば先ほど空目がいた位置からでもよかったのではないだろうか。
そうすれば態々立ち上がって移動せずとも、身体を横に倒すだけであやめの膝には頭が乗る。
しかし空目はそれをしなかった。
それに対してあやめは小首を傾げた。


「あの、膝をお貸しすることには全く異論はないのですが、どうして態々移動なさったんですか?先ほどの位置からでも膝をお貸しすることは出来たのですが・・・・・」


その問いかけに空目は閉じていた瞼を持ち上げた。
そして再度あやめを見据える。
あやめの可愛らしい顔が、反対方向に見える。
そして自分を見るために少々俯いているため、その顔は近い。


「・・・・・」


空目はゆったりとした動作で右手を上げ、あやめの頬にその手を寄せた。
あやめの滑らかな頬に、その手がするりと心地良い感触を得ながら滑ってゆく。


「理由は・・・・・そうだな・・・・・・・」


あやめの頬に手をかざしながら空目は左肘を支えにして、その自身の上半身を押し上げた。
そして軽く首を伸ばすとあやめの顔が近くなり、その距離がなくなる。
唇と唇が僅かに触れ合い、熱が伝わった。
だが、それはいつもとは違っていて。
真逆の、口付け。


「───この方向なら、キスをしやすいといったところだな」


そう述べて、空目は不適に笑った。

その行為と言葉にあやめは目を見開き、次いでその頬を耳元まで瞬時に赤く染め、両の手をその口元に寄せ、口元を覆い隠した。
空目はあやめのその反応に僅かに微笑み、その持ち上げた身体から力を抜いて、再びあやめの膝にその頭を落す。
布越しの柔らかな足の感触が頭から伝わり、空目はそれに僅かな幸福感を見出す。
そしてその感覚に身を任せて瞳を閉じた。

膝元から寝息が聞こえる。
これは自分のものではなくて、他人のもの。
膝元で眠る、漆黒の魔王のものなのだ。
あやめはそんな空目の寝顔を見ながら、未だに頬を赤らめて口元を手で覆っていた。

ほんの一瞬の出来事だった。
ただ少し触れただけの口付け。
けれどもそれはとても新鮮で。
どうしようもない嬉しさと恥ずかしさがあやめの中で渦巻いていた。

じっと膝元で眠る空目の寝顔をあやめは見つめる。
気持ちよさそうな寝息を立て、安堵した表情で眠っていた。
不適に笑いながらも口付けをしてきた主は今は夢の中。
そんな眠る空目を見てあやめは先ほどの言葉を思い出す。

『───この方向なら、キスをしやすいといったところだな』

それを自分で思い出し、少し収まりかけていた頬の赤みが再び蘇る。
それでも視線は動かない。
眠ったままの空目を見たままだ。
膝元で眠る空目。
普段は見上げる側のあやめだが、今は見下ろす形となっている。
しかもその顔は反対方向を向いていて、尚且つ安らかな表情で眠っている。

そんな空目を見下ろしながら、あやめは少し逡巡すると、意を決してその身を屈めた。
距離が先ほどと同じように縮まってゆく。
ただ違うのは、先ほどよりも視点が低いこと。

空目の顔が近くなり、その唇にそっと自らのそれを寄せた。
僅かな感触を残して、あやめはその身を元に戻す。
自分のその大胆な行動に少々頬を染めながらも、先の言葉を実感する。


「・・・・・確かに・・・・・しやすいかもしれません・・・・・・」


そう言って己の放った言葉に益々頬を高潮させながらも、あやめはこの幸福に身を寄せた。
そしていまだ眠ったままの主に暖かな視線を向け、その柔らかくも滑らかな黒髪を手で梳き始めた。

さらさらとした感触。
とても気持ちいい。
愛しい人の髪を梳きながら頭を撫でるというのは、こうも幸福を感じるものなのかとあやめは思う。
あやめは愛しそうな視線を今はもう眠っている空目に向けながら、その穏やかなひと時をゆったり過ごす。

幸福な時間はまだ続く。
彼らが思い続ける限り、ずっと。

END


* * *


ここまで読んでいただき有難う御座いました。
こちらは5000Hit御礼絵のちょっとした小話に御座います。
ほのぼのとした甘さが醸し出せていればいいな〜と思いつつ書いていました。
ですがちょっとスランプ気味だったので、微妙に内容が変なのは気にしないで下さいね(汗

こちらの小説は5000Hitフリー御礼絵の募集でリクエストして下さった紅瑠様に差し上げます!
宜しければ貰ってやって下さいませ。
まあ、いらっしゃらないとは思いますが、イラストの方はフリーなのでどなたでも頂いて下さって構いません。
しかしこちらは紅瑠様だけに捧げますので、他の方はご遠慮下さいね(汗

ではでは紅瑠様、リクエスト有難う御座いました!

2007,8,23 水野佳鈴

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