「で、後何を調べたらいいんだ?」
「そうだね、後は・・・・・少し歴史の資料が足りないから、郷土史辺りを調べてくれる?」
「判った」
そう言って俊也が巨大な図書館の書棚の中へと消えて行ったのはつい数十分前のこと。
対して亜紀はその間黙々と前に俊也に持って来てもらった書籍に眼を通し、資料として使えそうなものをピックアップしていた。
しかしそれも長いこと続けていたせいで少々億劫になり、亜紀は疲れていた。
そしてその疲れを少しでも開放させるために、亜紀は椅子の背凭れへと身を預け、大きな溜息を付いた。
「この図書館は本当に品揃えはいいから資料には困らないんだけどね・・・・・流石にここまで膨大な資料があると、絞るのも一苦労よ・・・・・」
そう呟いて眼の上に腕を置いて視界を遮る。
長々とした作業はかれこれぶっ続けで二時間はしていた。
それでもまだまだ資料は足りず、俊也の手を借りては本を探し出してもらっている。
厄介な課題を選んでしまったものだと自己嫌悪をしながらも、そんなことを言っていても意味がないと邪念を払う。
そしてまた一息大きく溜息を吐くと、それで気を取り直したとばかりに亜紀は背を伸ばした。
「さ、やることやらなきゃね」
そうしてペンに腕を伸ばしたはいいが、ふと昔読んだ郷土史の本があったことが頭に過ぎった。
それはそれなりに興味を惹くものが沢山書いてあり、そして今回の資料にするにはもってこいのものだった。
それを今思い出して亜紀は舌打ちをする。
「・・・・・なんでそれにもっと早く気づかないのよ・・・・・」
それにもっと早く気づいていれば、思い出していれば、わざわざ俊也に先ほどの資料探しを頼むこともなかったのに。
そう思って自分の情けなさに自己嫌悪をしながら、亜紀はその場から立ち上がった。
そしてそのまま俊也がいるであろう郷土史の書棚へと足を運ぶ。
向かった先には案の定俊也がいて。
俊也は片手に本を眺めながら、もう片方の腕には数冊の本を抱えていた。
「村上」
その亜紀の一言に俊也は本へと向けていた視線を外し、亜紀へとそれを向けた。
「ごめん、さっき思い出したんだけど、前に私が読んでいた郷土資料があって────」
「これだろ?」
亜紀の言葉が全部言い終わらないうちに、俊也が言葉を上に乗せて遮った。
俊也の片手には先ほど目を通していた本とは違う、茶色い本が握られていた。
それは俊也の腕の中にあった数冊の中の一冊で。
そしてその表紙を見れば、亜紀が以前読んでいたそれだった。
「村上、どうして────」
どうしてそれが判ったのだろうか。
亜紀はそれに驚き、呆然とした表情で立っていた。
そんな亜紀を見て、俊也は軽く苦笑してみせる。
「前にお前が部室で読んでいただろ。それをたまたま覚えてたんだ」
そう言って亜紀の側へと俊也は近づき、それを手渡す。
「一様俺もざっと目を通したが、これが一番資料としては有効だと思う。他もまだ当たってみるが、お前も疲れているみたいだし、さっさと終わらせようぜ?」
そう言って俊也は軽く笑い、再び資料探しに背を向けた。
その遠ざかってゆく大きな背中を見て、亜紀は手にした本をぎゅっと少し強く握る。
そしてその背に向けて、小さく呟いた。
「・・・そうだね」
そう言った亜紀の表情は、夕焼けの色に溶けていた。
資料探索
Illust『勉学の秋』
2007,9,19