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眼鏡が光って目は見えないけど、形のよい口元が弧を描く。
にたぁ…っ、と言う効果音がぴったりな笑みは新しいオモチャを見つけた子供のようだった。


「わわわわ忘れてくださ……っ!ひぃっ」

「でけえ声だすんじゃねえよ」

「むぐっ」


ななななんでそんな威圧的なの初対面ですよね僕たち。
手で塞がれた口の圧力スゴいしなんなのこれもしかして僕レイプされんの……いやいや、まさかそんな。
第一男の子だし、気持ちわりいんだよマゾ野郎とか罵られながら蹴られたり殴られたりボコボコにされるんだ、きっと。

そんな恐ろしい妄想に駈られて脳内のキャパシティがいっぱいいっぱいになった僕はとりあえず口を塞いでいる手を外しにかかった。


「うぐぐぐぐっ、ぷはっ」


とにかく物凄い力だったので、もちろん片手でなんか外れる訳はなく。
ほっそりした外見に反してがっしりと骨太で筋張った腕は、手首を掴み中指と薬指を反らすようにしてやっとのこと引き剥がすことに成功した。

抱き抱えていた袋はどうしたかって?
そんなの、床に落ちたに決まってるじゃないか。


「あ…………」


袋の中のそれが無機質な音をたてて転がったのを思わず二人で目で追って、視線がかち合った。


「ふっ、カマトトぶったって所詮変態のくせに」

「え……?ちょ、なっ」


両手で掴んでいた手が目の前でくるりと回ったかと思うと僕の二つの手を片手で握りこまれ、頭の上で一纏めにされてしまった。


「これ、お前が使うんだろ?」

「!」


顔面に一気に血が集まる。
本当に聞かれてた……!

そのリアクションを肯定と取られたようで、苛立ったみたいに舌打ちをした後、後ろの壁に押し付けられ、ズボンの上から穴を抉るように揉みしだかれた。


「まったく、けしからんマネしやがって」

「ひ……っ」


恐怖なのか緊張なのか、強張った体を引き攣らせながら喉を反らして目を見開いた。
ガクガクと震えながらひきつる声しか出ない。


「っ、、ガキの癖にエロいんだよ」


そうかこの人はゲイなんだ。
今さら気付くの遅すぎとか言う指摘は聞きません。

とにかく僕はようやく気付いた。
厄介な人に捕まってしまったと。

何がスイッチになったのかわからないが異様に興奮しているようだ。
唇が近付いてきてる。
よくよく見れば目が血走って居るではないか!
このままじゃマジでレイプされてしまう!

こ、こわーーー!

誰か助けて超助けて神様仏様蝶子様!


「い、いやだ」


ぽーーーん


「………………は?」

「え?」


流石超高級仕様。
乗るとき同様、エレベーターの扉は音もなく開いた。


「………………」


二人で動きを止め見詰めあってしまったが、決して同盟を組んだわけではない。
だだ状況が把握できていないだけだ。


「その手を離せ」

「そうだ今すぐだ」

「さもないとお前は警察行きだ」


そこには三人の屈強な警備員がずらりと並んで立っていた。
帽子のせいで顔は見えないがご信用の警棒をしっり小脇に抱え込んでいるので怖い。とっても怖い。


「な、なん……っ、え……?なに、お前どっかの金持ちの坊っちゃんだったの……?貧乏臭い顔してるからてっきり……」


さっきまでの暴君ぶりは何処へやら。
僕を押さえ付けていた手はすっかり緩み、お兄さんは焦ったように目を泳がせている。

ちがうちがう、と首が取れそうなくらい左右に振ると、僕よりも先に無表情三人組が口を開いた。


「いや違う、そいつはお嬢様の下僕」

「いやペット」

「いや家畜だ」


どれも当たらずも遠からず……。
悲しい気持ちになるじゃないか。もうやめてくださいお願いします。


その後は言わずもがな警察に捕まった容疑者よろしく、お兄さんは引きずられるようにエレベーターから下ろされてしまった。


「お嬢さんがお待ちだ早くいけ」

「こんなにも愛されて幸せなやつめ」

「まったくだ、羨ましい」


三人のうち二人に羽交い締めにされてしまっているお兄さんが救いを求めるようにこっちを見てくる。
やめてそんな目で見られたって僕には助けてあげられない。

余った一人がご丁寧にもエレベーターのボタンをわざわざ押してくれてあっさり扉は閉まった。


なんだったんだ今のは。
一人取り残された真っ白の箱の中、とりあえずの危機は去ったはずなのに全くもって心に平穏が訪れないのはどういう訳だ。

いっそこのまま何もなかった事にして逃げ出してしまいたい。
蝶子さんと一緒にいればこんな目に遭うのなんかしょっちゅうだ。
僕からアクションを起こさなければ簡単に逃げられる。
きっと彼女はみっともなく探したりなんかしない。

それら全ての感情に目を背けて床に打ち捨てられた紙袋を拾った。

だって僕はしってるから。
彼女が今まであった人たちの中で一番寂しく笑うこと。

そしてようやく着いた最上階で、僕はまた歩き始めた。
優しくて意地悪で愛しいあの人の元へ。


おしまい。

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