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スーツを着た知的な雰囲気の男の人が携帯電話相手に喋りながら入ってくる。

慌ててインターフォンに内蔵されているカメラに縋りつくと、レンズ板に反射して泣きそうに歪んだ自分の顔が見えた。


「ちょ…っ…ホントに開けて…っ」

『言わないとダメって言ってるでしょ』

「そんな…っ無理だよ、僕…っ」


後ろで喋っているお兄さんの声よりも大きくならないように気を付けて蝶子さんに必死に訴える。


『さっさとしなさい。往生際が悪いわね。変に思われるわよ』

「…で、でも…っ」


『今だったら会話に紛れて樹の声なんて聞こえやしないわよ』

「…!」


確かに、電話を切られてしまえばそれこそ僕の声は丸聞こえになってしまうし、もしかしたら今がチャンスなのかもしれない。


『 は や く 』


明らかにインターフォン越しの蝶子さんはイラついてる。


『どんなの買ってきたの?』


体中の血液が暴れ始め、顔と耳が異常なほど熱を持っているのがわかる。

僕は諦める覚悟をした。


「…ぁ…ぁな……ぶ…」

『聞こえないわ』

「…っ」


蝶子さんの声にも急かされ焦りはピークに達していた。

これ以上時間をかけてしまえば後でどんな仕打ちをされるか分かったもんじゃない。


言ってしまえば開けて貰えるんだし、我慢するのは一時だけだ。


ガラッガラの電車内での痴漢プレイや、人通りの多いハ○公前での痴話喧嘩に見せかけつつも僕の性的な弱点を延々と暴露するという公開羞恥プレイをされた事を思えば、こんなもの可愛いもんじゃないか。

そう自分に言い聞かせて、僕は震える唇から絞り出すように喋り始めた。


「…あ、なる…ぃ…ぶ…」

『はっきり言って』


キュッと瞼に力を入れると目尻に涙が滲んでるのが自分でもわかる。

声が震える。


「……っ…あなるばいぶ、です」

『ふふふ…そんないやらしいもの、いったい誰が使うのかしら。私じゃないわよねえ』

「え…!」


蝶子さんは酷い。

こうやって僕が恥を晒せば晒すほど、彼女は楽しんでいる。


『言って』

「…っ」

『樹、酷くされたいの?』


「……ぼ…ぼく、が…使い、ます」


嗚呼、このまま溶けて無くなってしまいたい。

身体中真っ赤に羞恥に染まり汗でワイシャツがじっとりと背中に張り付いている。
目尻には涙も滲んだ。



『ほんと、いやらしい子』




ほらね。

蝶子さんの声が艶を増し潤いを含んだ。


『そうよね。樹が使うのよね。じゃあ、どこに入れて使うのか教えてくれない?』

「蝶子さ…もう許し」

『そんな泣きそうな可愛い顔したって無駄よ。言わないと開けてあげないんだから。……絶対よ』


ぴしゃりと言い放たれて、ぎゅっと目を瞑った。


「…僕…の、ぉしりの……中に…ぃ、入れて…」


じわじわと迫り来る羞恥と一緒に下半身に熱が籠もり始める。


『よく言えたわね。開けてあげるから入ってらっしゃい』


ようやくお許しが出てほっと息を吐く。

よかった。
ようやく終わった。


『…でも、後ろのお兄さんには聞こえちゃったみたいだけどね』

「え」


スピーカーからブツッと回線が切れる音がしてハッとした。
そう言えばさっきよりも静かだ。

いつの間にか携帯電話で喋っていたはずのお兄さんの声は聞こえなくて、代わりに重い空気だけが充満している。


「…っ」


振り向いて確認するのも恐ろしくて、僕はようやく開いた自動ドアに転がるように逃げ込むだけで精一杯だった。



<つづく…?>




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