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「そうだ。関係ない」
「…お前良くもそんなことが」
「う、うるさい……っ」
「麻紀っ!」
不意に武の大きな手で顎を捕まれ上を向かされる。
今まで故意に武と目を会わせないようにしてきた。
武がそっぽを向いているとき、それはチャンスで、こちらを向かれていないときほど見詰めた。
その意味を、彼はしならい。
何でも無いような顔して隣を歩くのは辛かったけど今まで必死で隠してきた秘密がバレてしまった。
しかもこんな、最悪な形で。
汚い自分を知られて、もう隣を歩けない。
「麻紀、こっち見て」
キツく瞑った瞼の上にキスを降らされて体がびくつく。
心が冷え込んでいくのがわかる。
なんで……?
「聞け」
「…い、嫌…っ!聞きたくない…っ」
この状況が理解できないのと、自分に対する嫌悪感でぼたぼたと涙がフローリングの上に落ちた。
いつの間にか武の太い腕は体に回されて、耳元で呆れたような深い溜め息が聞こえた。
「お前は…本当にどうしようもないな」
心臓が締め付けるみたいに痛んだ。
「嫌に、なっただろ…。だから、もう会わない。…ここにも来ない」
「…今までずっと俺が守っている思ってた」
ズキズキとした痛みがどんどん強くなって、鼻の奥がツーンとした。
「もう会わないだって?ふざけるな」
「た、…たけ」
「こんな事で手放してなんかやらない」
幼なじみの口から出た言葉がおかしくて流れ落ちる涙もそのままに、彼の整った顔がゆっくりと近づく様を凝視し続けた。
視界にはもう彼の輪郭を捉える事はできない。
何故口付けられてるのかとか、いつからそんな風に思っていたのかとか、聞きたいことは山程あったけど、涙を拭ってくれる手が優しくて、今は何も考えない事にした。
「いい加減俺の気持ちに気づけよ、ばか」
息が出来ないほどキツく抱きしめられて、視界が真っ暗になる。
武の肩が、少し震えていたような気がした。
<終>
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