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全身が水で濡れて異常なほど重苦しい。
体に触れる風で痛みさえ感じた。
冷えすぎて動かない指先には一切感覚は無く、ぴくりとも動かない。

漠然と『このまま死んでしまうんだろうな』と思った。
水の中がとにかく心地よくて、このまま泉の中へ沈んでしまいたくなってしまう。
身体中が痛くて寒くて冷たいのにおかしな話だ。
いっそのこと同化してしまいたい、とも思った。


「おい、お前。生きてるか?」


低い男の声。
頬を軽く叩けるほど近くにいるはずなのに声は随分遠くから聞こえた。
口を開こうとするがちっとも体が言うことをきかない。
すると次の瞬間、脇の下に差し入れられた腕で泉の外へ引きずり出されてしまった。


“まだ水の中に浸かっていたいのに”


この思考自体が異常なのだけれど、そのときの俺はまったく気づかなかった。

少し移動したような気配がして、何度か頬を叩かれるが、瞬き一つするのでさえ億劫なほど疲弊しきっていた。
焦ったように体を揺すったり頬を叩いたりを繰り返されるのが煩わしくなって、ようやく薄く目を開けた。
定まらない視線をずらせば、端正な顔つきの男が眉間に皺を寄せて怪訝な顔つきでのぞき込んでいた。

覚醒したばかりで霞がかったように視界がぼやけている。


(…ここ…どこだ…?)


さっきまで浸かっていた泉が横目にちらりと見えた。


「生きてたか」


生死を確認するんなら脈を取るとか、呼吸を確認するとかもっと他にあるだろ、と思ったがまったく声がでない。
額に張りついた髪を掻き上げられて、その心地よさにうっとりと目を細めた。
長い時間水に浸っていたせいで、冷えきって震え始めた体を抱き起こされる。

ここは何処で、あなたは誰なのか。
なぜ俺は水の中で気を失っていたのか。

聞きたい事は沢山あるのに、震えた唇は上手く言葉を発してくれそうにない。
決して軽くはないはずの俺の体を軽がると持ち上げると、彼は幼い子供にするように背中を数回叩きながら言った。


「今安全な場所に連れてってやる。早く暖めなければ風邪を引いてしまうからな」


何年ぶりか…久しぶりに感じる生身の暖かさに、聡一はあっさりと意識を手放してしまっていた。

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