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まだ日も昇らない明け方の事。
駄々っ広いホールに呼び出された私はひざまづき、未だに姿を現さない主君のために頭を下げ、ひたすら待った。

あたりには真っ赤な絨毯が一面に張り巡らせてあり、頭上には華美な装飾を施されたシャンデリアがてらてらと輝いている。

いつもならば両端にお付きの者たちがずらりと顔を揃えているというのに、今日は誰もいない。

妙な緊張感に晒されつつも、ようやく目の前に現れた彼の美しさにため息がでそうになった。
肌は陶磁器のように白く、腰までのびた煌めくブロンドの髪。
それに海よりも透き通ったスカイブルーの瞳。
同じ男だというのに妖精か女神のような姿をしている。

その佇まいはその場に居る者達全てを魅了し、一瞬で虜にしてしまう力を持っていた。

四精霊の加護を受け、予知能力や不思議な力を操る彼を我々は敬意を込めて「月詠みの君」と呼ぶ。

「森林の奥深く、泉の中に落ちた神の使いをさらってきてほしい」

形良く整った唇が上下に開いて紡がれた言葉に、思 わず息を飲んだ。

「ーー今からでしょうか…?」

容易には理解し難いその言葉に思わず首を傾げたくなってしまう。

「そうだ」

「は、しかし今の刻限ですと魔物も多く…

「隣国の悪魔に気づかれる前に先手を打つのだ」

ーー神の使い。
ーー隣国の悪魔。

「これは国の行く末を左右する一大事ですよ」

先代の月読みが予知したという神と悪魔の戦い。
それに起因するものだろうか。

「わかりました」

「絶対に奴らに気づかれてはいけない。お前一人で向かってほしい」

ただ事ではないその様子にぴりりと緊張感が走った。



―――――



一定のリズムを刻む蹄(ひづめ)の音が清らかに澄んだ朝霧の中へ吸い込まれていく。

城からこの森にくるまでにようやく東の空が白ばみ始め、鳥の紬声も聞こえ始めた。

次第に葉と葉の間から光が射し、精錬された空気の冷たさが頬をちくりと刺激した。

(さて、どうしたもんか…)

『泉の中に落ちたーー』とは言われたが、思い当たる泉は5箇所。
この森は馬で走り回るにしても途方もなく広い為下手をうったら1日あっても足りない。

それに、ここには沢山の精霊もいるが、獰猛な獣も相当数いる危険な場所だった。



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