3

再び目覚めた時にはあの謎の頭痛はすっかり無くなっていた。
瞼を撫でられただけなのにまんまと眠りについてしまったらしい自分の単純さに腹が立つ。
けれども先程とは打って変わって億劫ながら体は動くようになり倦怠感も軽くなっていた。
どうやら発熱していたらしい。
肌に衣服が張り付きとても気持ち悪い。

「ぅ……っ」

ふかふかのベッドに肘を付き上半身を起こしてみる。
頭痛は無くなっていたもののやはり視界はぐらぐらと揺れる。
上手く力の入らない体を叱咤ながら時間を掛け起き上がると、まずはその馬鹿みたいに広い部屋に驚愕した。
自分が寝こけていたベッド以外特に何も置いて無かったけれども内装の様子などからとにかくここは金持ちの家なんだなという事だけはわかった。
外から入ってくる外光を一切遮断しない大きな窓。
天井には小ぶりながらもシャンデリアがぶらさがっている。思わず舌打ちをしてみて、そうだ声をだしてみようと思った。
ちょっとした緊張を振り切り喉を鳴らす。

「………ぁ……あ……あー…あー」

良かった出た。
もしも声が出なかったらという不安から開放されてほっとため息を吐いた。
それと同時に先ほどの疑問が頭を過ぎる。
そう。卓上に置いてあった鹿威しだ。
ベッドよりも少し高い位置に置いてあった白い丸テーブル。その上にあったはずだ。
なのにそこには何も置かれていなかった。
竹筒の先は確認したのでその場所で間違いないのに。
水の音も、モーター音もしないその存在がどうしても気になって、もう一度体に力を入れ今度はベッドから降りてみる事にした。
もしかしたらテーブルやベッドの下に落ちているかもしれないと思ったからだ。

「……っ…、ぅわっ」

でも失敗だった。
思ったよりも腕に力が入らずテーブルを巻き込む形で盛大に音を立てて床へ転がってしまった。
毛足の長いカーペットで体に対するダメージは少なくて済んだがもう起き上がれそうに無い。
床にぴったりと寝そべっているのに船の上に乗ってるみたいだ。
横になりがてら誰かのせいで倒れてしまったテーブルの周辺やベッドの下を見てみるがやはりあの鹿威しは無くなっていた。

「なんだったんだ…」

もしかしたら高熱が見せる幻覚だったのかもしれない。
だんだんそう思えてきていた。

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