佐倉聡一という男

佐倉聡一が生きてきた19年は、短いながらも絵に描いたような不幸そのものだった。

この世に生を受けたのは、人もめったに寄り付かない小汚ない公園の公衆便所。

父親はもちろん母親は不明。
ヘソの緒も繋がったまま血塗れで放置された乳飲み子は病院で保育器に入った後、下界とは隔離されているかのように山の上に建てられた施設へと保護された。
が、しかし、そこは腐りきった大人の溜まり場だった。

体罰、折檻は当たり前。
なぜか性的虐待を受けるのは女児より男児だった。

大きくなるに連れ見目の麗しさが際立っていった聡一は園長の慰みものになる他、寄付金の援助欲しさにその体を差し出されたことも多々あった。
そして、他にももっと可愛いげのある幼児はいたのにも関わらず何故か園長は聡一に執着した。
通常の子供たちは暴行を受ける度にどんどん萎縮していく。
性的虐待を受け続けて、だれもが嫌で嫌で仕方なかったはずなのに、行為の最中に媚を売れば優しくしてもらえると勘違いした輩がだんだんと増え始め、聡一の回りには腐った女のような物しかいなくなっていった。

それに比べ聡一は愛想がない。
笑わない、泣かない、怒らない。
見た目は良いがとにかく目付きが悪かった。

そんな自分がなぜ園長のお気に入りの座に収まっているのか回りは不思議で仕方なかった。
要らぬやっかみを受け羨ましいとさえ言われた。
意味がわからなかった。
豚のように汚ならしい爺に組み敷かれ、ただの性欲処理の穴に成り下がるの事の何がそんなに羨ましいのか。
お前は便所に棄てられてたんだから便器のようなものだ、これがお前の有るべき姿だ、と毎晩のように吐き捨てられる度に、いつかここから逃げだしてやると決意を新たにした。
聡一は何度も逃亡を計ったがすぐに見つかり連れ戻されてしまう。
その度に馬の調教用に使う硬くよくしなる鞭で背中をこれでもかというほど叩かれた。
背中一面が真っ赤に染まり、そこから滴った血が大きな水溜まりになった頃ようやく解放され、これだけ痛い目に会わせたのだからもう二度と逃げ出そうなんて考えないだろう、と必ず園長は言っていたが、聡一の決意が削がれるなんてことはまったくもってある訳なかった。

養護施設とは名ばかりの牢獄から逃げ出すため初めて門を出たのは9歳の春。
やっと実を結んだのは義務教育も終わる15歳の冬だった。

有刺鉄線を素手で掴み血塗れになった手も、薄っぺらい靴で雪の上を走った為に凍傷になりかけてるだろう足も痛くは無かった。
ただ満身創痍。
山の麓の交番に行きも絶え絶えに駆け込みその場で気を失ったが、秋仁の体中の折檻の後により警察沙汰により施設は閉鎖。
園長はお縄を頂戴した。

その後は高校にも行かず、住み込みのバイトを始めるが一般常識にかけている聡一はすぐに首になった。
長く続いた仕事は1つもなかった。
だから肉体労働の日雇い労働ばかり請け負った。
親しい友人も出来ず仕事と寝る為だけに帰ってくる家との往復。

そんなクソつまらねえ日々もこれでとうとうおさらばか……。
なんでそんな事考えるのかって?

ーーだって体が動かねえ。

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