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自分が指揮する一部隊中でも飛び抜けて強い者しか立ち入ることは許されていない曰く付きの場所だ。

もしかしたら、その神の使いとやらはもう生きてさえいないかもしれないじゃないか。


馬を歩かせながら辺りを見回していると木々が音を立て一斉に揺らぎ始めた。

「なんだ…?」

この森は精霊と魔物が共存している。
端から見る分には穏やかで、今のように枝と枝がぶつかり合うようにしなりを効かせるなんて見たことがなかった。

なぜこんな現象が起きるのかわからないが、なにか異変が起きているのは確かだ。
遠くまで目皿凝らして観察すると、木と木がしなり合う合間からキラキラと漏れる出る光を見つけた。

わき目もふらず一直線に森の中を突き進む。


あれはもしや…。

いや、しかしおかしい。


ここから一番近くにある泉は最短距離を走っても半時はかかるはずだ。

日に日に深くなる眉間の皺を一層濃くしながら、手綱を握り直し馬の脇腹を軽く蹴った。


やはりそこは泉だった。
ひっそりと小さく、けれど壮大な存在感を感じる。
自分の頭の中にも、懐に忍ばせていた城周辺の地図にもなぜか何の記録もない。
森の入り口からさほど離れていないはずなのにその存在に今まで誰も気がつかなかった。

ーーいや、それとも意図して隠されていたのか。

一歩、また一歩と近づくたび、周りの木々がうるさいくらい音を立てて何かを訴えるようにざわめいた。
風に背中を押されるようにして歩みを進めながらふと思う。

そう言えば、月読みの予言の中に出てくる神の使いは水の精霊の加護を受けた者だった。
そいつがこの場所にいるというのなら、やはり月読みの予言通りだったと言うことになるのか。

辺り一帯を見回すと、青々と茂る草の上に黒いものを見つける。
それは人だった。
半身はまだ泉に浸かったままだ。
息耐えているのかと思うほど青白く、ぴくりとも動かない。

摩訶不思議な衣服を身につけている。
柄も何もないねずみ色をした布地は水分をたっぷりと含んで少年の細身の体に絡み付くようにぺったりと張り付いていた。
しかしこの国の者ではないと判断できたのは衣服によってじゃなく髪の色からだった。なぜなら、黒は邪悪その物。
俺は産まれて初めて漆黒の髪の毛を持つ人間と出会った。

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