痛いの痛いのとんでけー
あれから数時間がたった。
時刻はもう授業も終わり生徒達も思い思いの場所に散りじりになる頃。
あんなに晴れていた青空も鮮やかなオレンジ色に染まっている。
腹部が訴える地味な痛みに僕は苦しんでいた。
「…い…ッ、いた、い…」
あまり使われていない校舎のあまり使われていないトイレの中で気が済むまで呻いたあと、そっとYシャツをめくった。
さすがに水ぶくれはできてないけれど、皮膚は赤らんで腫れあがってきている。
「う…わぁ」
さっき見たときよりも明らかに悪化している。
この様子じゃ下手すれば痕になってしまうかもしれない。
医務室にいけば応急措置くらいはしてもらえるだろうか。
幸いにももう規定の業務時間をすぎている。
「……先生、まだいるのかな」
ここ数日でかなり覚えた教室諸々の配置を思いだし、重い足取りで医務室へ向かった。
特に不在の札もかかっていなかったので、真っ白な引き戸を遠慮がちに数回ノックしてみる。
「………」
……??
返事がない。
鍵は開いてるみたいだけど、これって勝手に入って良いのかな?
ゆっくりとドアを横にスライドさせてみると、かすかに話し声が聞こえた。
なんだ。
人居るじゃないか。
『――あっ、あっ、あんっ』
と、思ったのもつかの間。
どうにも様子がおかしい事に気付く。
手に掛けた扉を半分くらいまで開けた後、僕は身を凍りつかせた。
扉の隙間から見えるのは簡易な医療器具が揃う室内。
明らかにここは医務室だ。
それなのに確かに声はするのにそこには人っ子一人居やしない。
ガランとしたこの場所にはお馴染みのベッド群の最奥。
扉から一番離れたところに設置されてるそこだけ、不自然にカーテンが締め切られている。
だいぶ離れているにもかかわらず聞こえるのは荒い息づかいとベッドの軋む音。
それから、控えめに漏らされたあえぎ声だった。
『――…んぱぁぃっ、あんっ、きもちいいっ』
僕は暫く固まった後、後ろへ一歩ずり下がった。
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