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何度か遠慮して断ってみるけど、「いや」「でも…」「あの」と弱腰な振る舞いの割りに意外にも頑なな一面を垣間見せ、頑として譲らない。
そんなスタンスで来られたら押しに弱い僕はどうしたって首を縦に振るしか無いのだ。
こんなラーメン臭い体でごめんなさいと、先生の後を小さくなりながら着いていくと急に立ち止まった早川の背中にぶつかる。
たっぷりラーメンの汁を吸い込んだ服で汚してしまったんではないかと身をこわばらせるけどなんとか大丈夫だった。
痩せてる人特有のぼこっと出っ張った背骨に頬骨を打ちつけ痛かったけど、それよりも驚くべき事があったのでそちらに気を取られてまったく気にならなかった。
なんと生物室は歩いて三歩のところにあった。
しかも驚くべきはその部屋の暗さ。
薄暗いなんてもんじゃない。
真っ暗だ。
生物室ってこんなだったろうか?
僕のイメージとかけ離れすぎてはいるけども、それでも早川先生にはぴったりだった。
その早川先生はというと、真っ暗の絨毯みたいなカーテンを少しだけ横にずらした。
どうやら光を入れたらしい。
なぜ全部は開けないんだろうという疑問はこの際置いとく。
僕は少し大きめのYシャツとスラックスを借り、隣接した準備室らしき部屋で着替えさせてもらうことにした。
英君にもらったメモはパンが入っている袋に入れ、さっさと服を脱いで行く。
なんと濡れタオルまで用意してくれるという献身っぷりだ。
この学園に来て生徒達から散々な扱いを受けるのにまだ慣れていない僕には正に飴と鞭の飴だった。
見た目に捕らわれてちょっと危険な人かもとか思ってごめんなさい。
「…」
目が合ってしまった。
すぐにそらされたけど、今だったら言えるかも。
「…実は…ご相談が、、」
「……」
「………………」
どうもこの二人でいると会話のテンポが悪い。
どうしても沈黙が続いてしまう。
「……っ」
「あの時の事は、い、言わないよ」
「え?」
「…あ…あの非常階段でのこと」
「あ」
「君は私に、そ、それを口止めしたかったんだろう」
僕は夢中で首を縦に振った。
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