3

「ただ単に、興味がわいた、じゃダメ?」


服をパタパタと叩いていた手が離れて離れていき、僕よりも少し低い位置にある目線とぶつかる。


「……きょ、うみ?」

「――まあいいや、これからわからせてあげる」


意味を謀りかねて眉間に皺を寄せている僕に、英君はじゃあねとだけ言い残して出て行ってしまった。

生徒と連絡先を交換する事はいけない事のような気がして、気後れしてしまう。

暫くその場に立ちすくんで考え込んでみたけど、結局答えは出なかった。

最後に見た妙に真面目な顔が頭から離れない。


見ればその紙には少しだけ皺がよっている 。
まるで僕なんかの為に渡そうと用意していたみたいだ。


そうだとしたらどんな気持ちでこれを書いたんだろう。

自分でも分からないけど、何故だかちょっとだけ心が痛かった。





その後は注意力が散漫になったのか散々だった。

冷房が動かないと言うので脚立に登ったままフィルターの目詰まりをチェックしていたら落ちそうになるし。(お腹は強打したけど脚立にしがみついて無事だった。見たら赤く痣が出来ていた。後で保健室に湿布をもらいに行かなくちゃ)

教材を届けに行った先では迷子になるし。(結局20分も授業に遅れ間に合わず、こっぴどく叱られた)

昼飯を食べに食堂に行けば生徒とぶつかって服が上から下まで汚れた挙げ句に、弁償までさせられた。(ラーメン代だけで済んで良かった。制服代なんて考えただけでもくらくらする。もっとも、汚れたのは僕の服と床だけだったんだけど)

床の掃除は幸いにもウェイターさんがやってくれるとのこと。

汁まみれの服のままで昼食をとる訳にも行かず、そのまま部屋に戻る事にした。

胸の辺りから滴るほどラーメンの汁を吸ったシャツやつなぎがべたべたと張り付いて気持ち悪い。


もやもやとした気分のせいで、悪い事ばかりが積み重なっていく。

肩を落として家路へと急ぐ途中何人かとすれ違った。

あからさまに苦虫を噛み潰したような顔をされて、背中を丸めてみたけどさっき脚立にぶつけた箇所が痛んでダメだった。


とにかく早く部屋に帰って身を清めよう。

いつの間にか早足になり自然と歩幅も大きくなっていった。

あの角を曲がれば多目的室や教材室、進路指導室があるはずなので昼時の今人は少ないはずだ。
そう思ったとき、急に現れた何かにぶつかって歩みは止まった。


「す、すみませ…」


少し黄ばんだ白衣。
これ、どこかで見た事がある。


「あ…っ」


ヒョロリとした体躯に、長い前髪と黒縁の眼鏡。
それから眼鏡の奥のぎょろりと大きな目。


「はやかわ、せんせい」




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